これが怒り?これが憎しみ?

「久しぶりだね、ゴドウィン」

「ああ、アカンサス。よく来てくれた」

「君の頼みだからね」

「アンタは昔から何も変わらないな」

「そう言う君は立派になったね。夜一人でXXXを慰めてた坊主が今や工房の親方だよ」

 最低な再会の挨拶だ。アカンサスさんは僕達にはセクハラ紛いなことを言ってこなかったので、ドワーフ流のコミニュケーションをとっているのだろう。それでも最低だ。

「これが今作っているデコトラってやつだね」

 アカンサスさんは絶賛製作中のデコトラを物珍しそうに隅々まで見ている。

「いいね!今まで見た事ない機構に装飾、新たな風を感じるよ!」

 アカンサスさんは気に入った様で来る途中に説明した荷台の絵も描いてくれそうだ。

「それで?どんな絵を描けばいいんだい?」

「結婚パレードに使うからそれに関連するものがええな、題材はアカンサスに任せる」

「うーん、ねえアスカ。ここって本来はどんなものを描いてるの?」

「ん?ああ、ちょっと待てろ雑誌持って来る」

 アスカさんは少し席を外して雑誌を持って来た。そしてデコトラ特集のページを開きアカンサスに見せた。

「こんな感じ」

 それを見たアカンサスさんはピタリと止まった。ジッと雑誌を見つめて髪の毛一本も動かない。

「これは……」

「?」

「キタキタキタキタ!降って来た!インスピレーションが!創作意欲が!情熱が!今まで見た事のない画風に表現!これは面白くなってきた!」

 何か色々と来たらしい。ゴドウィンは呆れている。もしかしてゴドウィンが会いたくなかったのはこのハイテンションエルフが嫌だったらのかもしれない。

「そうと決まれば描くぞ!描くぞ!うおー!誰も私の邪魔はさせない!」

 誰も邪魔はしていないのに勝手に叫んでいる。アスカさんもドン引きしている。もちろん僕もだ。

 その日からアカンサスさんは工房で寝泊まりを始めた。デコトラの荷台の側で寝て、起きたら叫びながら絵を描く異常行動を毎日繰り返した。

 アカンサスさんが暮らし荷台が置いてあるエリアは大きな布で仕切りができて中が見えない様配慮がなされた。アカンサスさんは集中すると乳が見えようが関係なしに作業を続ける為慌てて仕切りができたのだ。

 僕は買い出しに行ってたので乳が出ていたところは見ていない。しかしそれが羨ましいかと言えばそうでもなく、工房にいるドワーフ達は何だか少し元気がない。あのうるさい工房の中で更にうるさく作業をしているアカンサスさんに困っていたのだ。

 お腹が減ると工房にある食材を食い散らかし。雨が降ると突然外に出て全身で雨を浴びて、びしょ濡れの状態で工房に戻ってくる。日中から酒を飲むと叫んでそこら辺のドワーフに絡み、飽きると寝て起きたと思ったら作業にお取り掛かる。

 朝も昼も夜もお構いなしに暴れているアカンサスさんにドワーフは疲れきっていた。

 最近では仕切りの前に食材を入れた箱を置いている。完全に暴れ神を鎮まるためのお供物だ。

 ドワーフは外でできる作業はなるべく外でやって近付かない様にしている。今までそんな事無かったのに一緒に買い出しに行くドワーフも出てきた。


 そんな珍しくドワーフが焦燥する日々が続いてある日、アカンサスさんが仕切りの向こうから飛び出して来た。

「理想の色が出ない!」

 ドワーフ達はまた何か騒いでいると足早に去っていく。となると残るのは僕だけである。

「えっと、それはどうしたらいいんですか?買って来ますか?」

「いや、市販の物ではダメだ!鮮やかさを出すためにロックゴーレムの核が必要だ!ハンターギルドに頼んで持ってこさせよう!」

 アカンサスさんはドシドシとゴドウィンの下へ向かった。しかし遠くから聞こえて来たのはゴドウィンの怒鳴り声であった。

「そんな金残っとらん!あるもんで我慢せい!」

「ならお貴族様にもっとせびりな!」

「出来るわけないだろ!」

 度々無理難題を言うアカンサスさんにゴドウィンはなんとか付き合っていたが今日は要望を突っぱねている。

 不毛な言い争いを大声で繰り広げる二人を心配する様にドワーフ達が集まって来た。

「今度はなんだ?」「ロックゴーレムの核が欲しいんだとよ」「そりゃ家が買えるぜ」

 アスカさんも騒ぎを聞きつけやって来た。

「どうした?ヒカル?」

「なんかロックゴーレムの核が欲しいとか、凄い値段らしいです」

「何だそれ?」

「さあ?でも魔物らしいですよ?」

 二人で話していると一人のドワーフが話しかけてきた。

「ロックゴーレムは岩の体の魔物でな、その中心に宝石の様に綺麗な核があるんじゃよ。剣も通らんし滅多に市場に出回らん貴重なもんじゃ」

「へー、うちのピッチングマシーンで爆破できないのか?」

「あーやばい威力の球を作ってましたよね」

 アスカさんと僕がポロッと喋ると怒鳴り声が止み、アカンサスさんがバタバタと走って来た。

「その話詳しく聞かせて!」

 僕の目の前で止まり、顔をめり込ませる程近くでアカンサスさんは喋っている。

 あーやってしまった。直感でそれが分かった。しかし答えなければならない。

「えっと、爆弾があるんですよ。それでその魔物を倒せないかなーって。ただの素人の妄想ですよー」

「君!倒せると思うかい!」

 アカンサスさんは周りで見ていたドワーフを睨みつけた。

「え、まあ、危険だが倒せるとは思うぞ」

 テメー止めろ!倒せないと言え!絶対まずい事になる!早く否定しろ!

「ロックゴーレムの住処は分かっている。お前ら!魔物狩りだ!この中で魔物を狩った事がある奴は名乗りでろ!」

 あ!挙手制か、よかった。なら僕は大人しく黙ってよう。僕は草、そこら辺に生えている何も語らない雑草だよ。

「この前ヒカルがサラマンダーを倒したぞ」「そうだ!そうだ!ヒカルがピッチングマシーン使うの上手いぞ!」「ヒカルがお勧めだ!」

 テメーら殺す。爆殺してやる。

「なるほど勇敢なのだなヒカルは。よしそのピッチングマシーンとらを準備して討伐に行くぞ!」

 アカンサスさんは僕の首を捕まえて逃がさないようにしている。ドワーフ達はせっせと軽トラの荷台にピッチングマシーンを積みこんでいる。少しは抵抗しろよ。

 僕がドワーフ達を睨みつけるとウインクして舌を出して「すまんな」と小声で謝ってきた。

 うるせー可愛いくねーんだよ。

 僕がどうする事も出来ずドワーフ共に軽トラの荷台に放り投げられるとアスカさんが運転席に座った。

「私も協力するよ。誰かが運転しないといけねーだろ」

 イケメンだった。ドワーフの誰よりもイケメンだった。

 アカンサスさんも荷台に乗り込み全ての準備が終わった。終わってしまった。

 軽トラは軽快に走り出した。荷台からアカンサスさんが行く先の指示を出している。

 工房の外ではドワーフ達が見送りに来ている。

「頑張れよ!」「すまんな!」「達者でな!」「いよっ!男前!」「両手に花!」

 まじでここから爆弾をぶち込んでやろうかと思った。後さっきからアカンサスさんの胸が当たっているが何も感じない。興奮しない。これが怒りか。凄いな人間。戦争が無くならない訳だ。

 

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