トラックよりピッチングマシーンが主役な気がする
軽トラは荒野の道なき道をかっ飛ばしていた。荷台には僕とアカンサスさん、ピッチングマシーンに爆弾が入った箱、そしてツルハシを載せている。
アカンサスさんの指示の下、軽トラを走らせているが本当にこっちであっているのだろうか。街道を外れて随分経つが見えるのは大小様々な岩だけである。この景色を見ているとサラマンダーに追われた日を思い出す。
アカンサスは荷台で立ちながら遠くを見ている。ロックゴーレムを探しているのだろう。
「あの大きな岩を目指してくれ」
アカンサスさんの指示にアスカさんは従い運転していく。
僕も岩を見たが全く周りの岩との違いが分からない。何かエルフ特有の見分け方でもあるのか。
岩を目指しているうちに道に出た。先程まで荒れていた地面が少し平らになり走りやすい。なるほど、あの岩に人がいるのか。あれは家か何かのだろう。
岩に向かって走っているとアカンサスさんが止まるように指示を出した。まだ岩には到着していないがどうしたのだろう。
「よし、爆弾をあの岩に向けて放ってくれ」
「え?あの岩ですか?」
「そうだ、あれがロックゴーレムだ」
だいぶ近付いたが周りの岩との差が全く分からない。
「あの、何処が違うんですか?」
「下に何か引きずった様な跡があるだろ?これはロックゴーレムが移動した跡だ」
僕が岩に続く道と勘違いしていたのはその跡らしい。
「私だって見分けなんかつかない。だからロックゴーレムの痕跡を探してたんだ」
アカンサスさんはヤバめのエルフかと思っていたがしっかりとやる事はやるエルフであった。
「それで爆弾を撃った後はどうするんですか?」
「さあ?それで死ななかったら何度も爆発させるんじゃないのか?私ロックゴーレムを倒すなんて初めてだし」
やっぱりヤバめのエルフかもしれない。何一つ計画が無い。
「ほら、さっさとやれ!ぐずぐずしてると陽が落ちるぞ」
僕は恐る恐るピッチングマシーンを大きな岩に向けた。そしてロックゴーレムじゃないことを祈った。
爆弾が放たれ岩に直撃した。大きな爆発と共に岩が動き出す。
「大当たりだ!凄いぞヒカル!そしてやっぱりロックゴーレムのようだ」
大当たりなのはアカンサスさんだけです。まさか本当にロックゴーレムだなんて。
岩はズズズと引きずる様な大きな音を立てて起き上がった。デカい、それもかなり。
岩の手足が生えた大きな岩は僕らの方を見た。いや、目がある訳じゃ無いから見た気がしたと言うのが正確だろう。しかし明らかにこちらを見ている様な気がした。
ロックゴーレムは両手を地面に叩きつけた。凄まじい音と地鳴り、そして地面の揺れが僕達を襲った。
「ひぃ!アスカさん!出して!」
僕は呆気に取られているアスカさんに大声で指示を出した。アスカさんは直ぐに軽トラを動かした。とりあえずロックゴーレムから距離をとってくれた。
「爆弾、効いてないですよ!」
「うーん、とりあえず撃ちまくろう」
アカンサスさんは緊張感に欠ける物言いだ。そんなアカンサスさんとは裏腹にロックゴーレムは怒ったようにこちらを追いかけてくる。それも凄い足音を立てて。
「いやぁぁぁぁ!!」
「叫ぶな!男だろ!」
「無理ですって!」
あのロックゴーレムはかなり速い。あの大きな体格だから一歩一歩が大きいらしい。
「おい!これからどうすんだ?このまま逃げるのか?」
「爆弾が当たる位の丁度いい距離で走って!」
「無茶言うなよ!」
それでもアスカさんは運転してくれる。僕はとりあえずピッチングマシーンに球を込めて撃っていく。爆弾はロックゴーレムに届かずコロコロと地面を転がる。何発撃ってもロックゴーレムの動きは一向に変わらない。
ロックゴーレムは追いつけないと分かったのか動きを止めた。何だ?諦めたのか?そんな甘い考えが僕の頭をよぎった。だけどそんな訳がない。
ロックゴーレムは近くの岩を掴むとこちらに放り投げてきた。
「アスカさん!避けて!」
「だあぁぁぁぁ!!捕まってろ!!」
アスカさんはハンドルを切り思い切り軽トラの進行方向を曲げた。僕はなんとか軽トラに捕まりながら放り出されない様に踏ん張った。流石のアカンサスさんも必死に軽トラにしがみついている。
軽トラの後ろでは先程まで僕達がいた場所に岩が降ってきた。僕の血の気が一気に引いた。
「マジでどうすんだよ!これマジで死ぬぞ!」
「ロックゴーレムの周りを回る様に移動して!それでヒカルは爆弾は打ちまくって!危ない攻撃は私が警告するから!」
はぁ、見事な役割分担だ。これで成功すれば文句なしだ。
アスカさんはアカンサスさんの指示のに従い軽トラを走らせた。ロックゴーレムの周りを回る様に運転するのは楽じゃない。そもそも舗装されていない岩だらけの荒野を走っているのだ。右へ左へと蛇行しながら回っていく。
僕は回転してることにより更に爆弾が当てにくくなった。狙いが定まらない。とにかくこっちも動くしあっちも動く。そんな一進一退もしない不毛の戦闘にアカンサスさんはヤジを飛ばす。
「もっと右だ!違う!上!上!」
「それは避けろって事か!」
「違う!ヒカルに言ってる!ああ!上!」
「上ですか!」
「違う!アスカに言ってる!」
岩が上から降ってきた。
「うお!あぶね!分かりやすく指示しろよ!」
「右と左!」
「だからどっちだよ!」
「どっちも!」
「だああぁぁ!!振り落とされるなよ!」
もう、指示も何もかもぐちゃぐちゃだ。意味もなく体力と爆弾と燃料だけが無くなっていく。
「これ死ぬのも時間の問題だぞ!」
「本当ですよ!どうするんですか!」
「ちょっと待ってて!考えるから」
「早くしろよ!」
「分かった!足元を爆破させよう!」
「それはどうやるんだ?」
「アスカがロックゴーレムの足元ギリギリに近付いて、私が爆弾を撒くから!そしてたら全力で逃げて!」
「分かった!」
「嘘でしょ!」
軽トラは方向転換してロックゴーレムに向かって走り出した。もちろんロックゴーレムもただ見ている訳がない。腕を振り上げて僕達を叩き潰そうとする。
軽トラの動きは軽快だった。今までアカンサスさんの指示で動いていたアスカさんだが今は自分で目視できる。
巧みなハンドル捌きでロックゴーレムの攻撃を躱していく。僕はただ顔を伏せて祈るしか出来なかった。
「これがギリギリだ!」
「よくやった!充分だ!」
ロックゴーレムの足元ギリギリを通り抜ける軽トラからアカンサスさんは箱ごと爆弾を放り出した。そしてアスカさんに向かって叫んだ。
「全開!」
「おう!」
軽トラは更に加速してロックゴーレムから離れて行く。軽トラからぶちまけた爆弾はまだ爆発しない。
その時ロックゴーレムがこちらに向くため足踏みし大量の爆弾を踏みつけた。
「伏せな!」
アカンサスさんがそう言うと僕の頭を手で押さえて屈ませた。
軽トラの後ろからとてつもない爆発音と衝撃が僕を襲った。何より熱風が僕の背中を掠めていく。
「あっつ!あっつ!」
僕は軽トラから放り出されない様必死で掴まっている。軽トラは爆発の衝撃により後輪が少し宙に浮いている。そんな軽トラをアスカさんは必死で操作している。
後輪がズシンと大きな音を立てて地面に着地すると僕の体は一瞬宙に浮いた。そして思い切りスネをぶつけた。痛い、痛い、激痛だ。
大爆発に巻き込まれたロックゴーレムの姿は多量の爆煙に阻まれて確認出来ない。お願いだこのまま死んでくれ。
軽トラはそれなりに離れたところで停まって様子を見ている。すると煙の中からロックゴーレムが這うように現れた。明らかにこちらに向かって来てる。
「生きてる!」
もう嫌、何でそんなに元気なの。
「ヒカル!撃ちまくれ!」
「はい!」
アカンサスさんの指示に従い、ありったけの爆弾をピッチングマシーンで発射した。足を失ったロックゴーレムの動きは鈍く、爆弾は簡単に当てる事が出来た。
何発撃っただろう。当たる度にロックゴーレムの動きは鈍くなり、そして遂にロックゴーレムは動かなくなった。遠目に見てもわかるぐらいその体に大きなヒビが入っている。
軽トラはバックでロックゴーレムに近付いた。それでもロックゴーレムは動かない。
「よし、核を採掘するぞ」
僕もアカンサスさんはツルハシを持って軽トラから降りた。アスカさんは念の為運転席で待機してもらった。
僕達はロックゴーレムの目の前に来たが動かない。それにしても暑い。爆発の熱が残っている。
アカンサスさんがロックゴーレムの上に乗ると岩の塊が動き出した。
「動いてる!」
「しつこいぞ!」
そう文句を言うとアカンサスさんは持っているツルハシをロックゴーレムの体にガツガツぶつけ始めた。ヒビに的確に何度もツルハシを打ちつけている。
「早く核を寄越せ!そして私の作品になるんだ!後世まで語り継がれるのだ!何も文句はないだろ!ほらさっさと死ね!早く死ね!今すぐ死ね!」
岩に向かって叫びながらツルハシを打ちつける様は狂人である。ツルハシを振るたびに乳が揺れるが何にもエロくない。ただ怖かった。
そうして暴力的な採掘をしていると遂にロックゴーレムは動かなくなった。
ヒビの隙間から赤い光が見えた。
「やっと見つけた!」
アカンサスさんが赤い光の周りをガツガツ掘ると中から赤い宝石の様な塊が出てきた。それは綺麗であまりにも魅力的であった。
「素晴らしい!これで完成する!」
アカンサスさんは興奮のあまり僕を抱きしめた。乳圧が僕を襲う。幸せなのか、これは。
その後二人で核を取り出して軽トラに運び込んだ。二人掛かりでも重く、途中からアスカさんも参加した。そうしてやっとの事で核を荷台に載せると緊張が切れて一気に疲れが溢れてきた。
「お疲れ!アスカもヒカルもよくやってくれた。この核はかなり大きいぞ」
「そうですか、よかったです」
「それはいいんだがこれからどうやって帰るんだ?」
え?アスカさんの発言に反応して僕は周りを見渡した。
「岩だらけでどっちから来たが私分かんないんだけど、どうすんだこれ?」
確かにどっちも向いても岩しかない。それにロックゴーレムと戦うためにぐるぐる回っていたから元来た方角が全く分からなくなってしまった。
僕は気が遠くなる感覚を覚えた。まさかこんなに頑張ったのにここで野垂れ死ぬのか?そんなのあんまりだ。
「どっちって、向こうだろ?」
アカンサスさんは迷わずある方向を指差した。
「あっちでいいのか?」
「そりゃ太陽の位置とか風の流れがそうじゃないか」
さも当然の様にアカンサスさんは言った。意外にもしっかりとしたエルフであった。
そして本当に合ってた。指差した方向に進むと街道に出た。そこからは何も覚えていない。安心した為僕はぐっすり寝てしまった。
叫び声に驚き僕は目を覚ました。目を覚ますと工房におり、軽トラの荷台でそのまま寝かされていた。辺りはすっかり暗くなっている。ご丁寧に枕と布団まで用意してくれていた。
叫び声の主はアカンサスさんであった。仕切りの向こうからずっと叫んでいる。
「これだ!これだ!これだ!この色だ!凄いぞ!凄いぞ!とんでもないぞ!」
何でそんなに元気なのだろう。僕は気付かれないように軽トラから降りて帰ろうとした。
ほんの僅かな音であった。軽トラから降り時に着地音がした。それだけであった。
仕切りの向こうからアカンサスさんが飛び出して来た。
「ヒカル!起きたか!ありがとう!素晴らしい発色だ!」
「いえ、満足そうでよかったです」
「満足なんてものじゃない!本当に素晴らしい働きをしてくれた。何を隠そうロックゴーレムの核と言うのは……」
アカンサスさんはテンションそのままに語り始めた。疲れと眠気で意識朦朧としながら僕は何とか立っている。寝かせてくれ。お願いだから。
そんな願いも虚しく、アカンサスさんの興奮は冷めず、日が上るまで話し続けた。
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