第三話

トラックの荷台に積み込んで

ドワーフのわがままに付き合いサラマンダーに追われてから数日後、僕は平和な日常を取り戻していた。

 ドワーフ共は僕が死ぬ気で手に入れた素材を使い好き勝手にトラックを作っている。その間僕は酒やら肴等を買い出しに領都に出向いている。軽トラでの長距離移動が可能になり買い出しも僕に押し付けられたのだ。全くもって腹立たしい。

 ただそこはゴドウィン、僕に駄賃をくれて好きに使っていいと言ってくれた。なんだかんだ上に立つ者として下の人間の扱いを心得ている。

 何より自費で移動となるとトラックを借りて燃料を買わないといけない。馬車で行くと数日かかる。

 なんだかんだ買い出しを僕は楽しんでいた。ただ道楽の様にトラックをいじくり回す連中のパシリになる事については納得はいっていない。

 そんな裏腹な感情を抱えつつ今日も領都をトラックで走り回っている。

 どうやって説得したか分からないが軽トラは街の中に入れる様になっていた。ゴドウィンが門番に賄賂を渡したのか、アスカさんが領主を脅したのか分からないが聞かない事にしよう。下手なことを言って問題になるのが怖い。沈黙は金、いい言葉だ。

 街中をトラックで走ると嫌でも市民の目が気になる。ただ既にアスカさんが走り回ったおかげで誰もが軽トラを受け入れて何事もなく生活している。子供達は見慣れぬ軽トラを見て走りながら追いかけてくる。

 街中ではトロトロ走っているが子供に並走されると気が気でない。慎重かつ丁寧に僕は運伝してドワーフ共に頼まれた品を調達していく。

 まずは酒屋に行って酒を樽ごと買い付ける。酒樽は重いが何だかんだドワーフの里で重労働を耐えた僕は店員と一緒に軽トラの荷台に載せる事が出来た。眼鏡のひ弱な青年から眼鏡のガリマッチョになったのだ。

 しかし一度調子に乗り酒場でドワーフと腕相撲したが耐える事もできず瞬殺されたのだ。それ以来僕は筋肉自慢はしないと誓った。

 そんな悲しい過去と服の中に眠る筋肉と共に次の目的に向かう。

 次は市場に行き主婦ドワーフの為に果物を買いに来た。本当は工房の買い出しに来ているがどうせ行くならとアレもコレもと頼まれてしまった。そんな主婦からもお駄賃を貰っているので僕は快く引き受けた。何より主婦達は僕に優しい、同じドワーフなのになんでこう工房の奴らは僕に有り難みを感じないのだろう。

 市場でも箱で果物を買い、荷台に積み込んでいく。目を離した隙に子供達が荷台に乗って遊んでいるので優しく諭して降りてもらった。

 子供達は聞き分けが良く、直ぐに降りてまた軽トラの後を追いかけてくる。なんて素直で可愛らしいんだろう。本当にクソドワーフ共は何で子供よりわがままなんだ。

 他にも町に住んで工房を営んでいるドワーフの下へ行き、足りない素材を注文されたり、手紙を渡されたりなど細々とした用事を済ませていく。

 ゴミくそドワーフの地図は曖昧で、

「行けば分かる!」「中央辺りにある!」「住人に聞けばいいだろ!」

 などなど人にお使いを頼む姿勢が皆無な役に立たない助言をくれた。

 僕は追いかけてくる子供達に道を聞きながら工房を目指した。本当にゲロゴミクソドワーフより話しが分かる子供達だ。

 子供達に案内のお礼に主婦から貰ったお駄賃を少し渡した。子供達は駄賃を片手にお礼を言いながら走っていった。

 ああ、僕にもあんな時期があったなぁ。お母さんのお手伝いをして貰った駄賃でスーパーのお菓子売り場でお菓子を吟味してた。

 全ての用事が終わった事を確認して僕は街から出た。街を出る時の門番はその昔僕がゲロをぶっかけた人が担当していた。

 僕は目を合わせない様に前方を凝視しながら横切っていく。本当にごめんなさい、許さなくてもいいので僕を睨みつけるのはやめて下さい。他の門番も軽トラをまじまじと見つめてくる。貴方達にはゲロをかけてないでしょ、そんなに見ないでくれよ。

 緊張感溢れるひと時を過ごした僕は里に帰る為に走り出した。何度も乗っているため加速もスムーズになり運転も楽しくなってきた。

 やっぱり街中でトロトロ走るより、誰もいない街道をそれなりの速さで走るのが気持ちいい。

 一人になると気が大きくなり歌いたくなる。

「フンフンいつまでもーフーン、フンフン走れ、走れフーン」

 ああ、素晴らしい。やっぱり僕は一人が好きだ。コンコン。なんてたって自由だ。コンコン。自室も壁が薄いせいか外の音が聞こえてくる。コンコン。この一人でいるひと時がかけがえの無い時間である。コンコン。

 先程から後ろから何か音が聞こえる。僕はバックミラーを見てみると荷台に女の人がいて後部ガラスに叩いている。

「ぎゃああああああ!!!」

 怪奇現象、心霊現象、超常現象。僕は絶叫した。この広い草原でただ僕の悲鳴だけが響いていった。

 

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