ロマンチックお嬢様
「すいません、勝手に乗ってしまって」
「い、い、いいえ、大丈夫ですよ、いいお天気だからそういう人もいるでしょう」
荷台に乗っていたのはしっかりと生きているお嬢様だった。悪霊の類ではないのは分かったが動揺が抑えきれない。冷や汗が止まらない。
ひとまず助手席に乗せて話を聞く事にした。
「私の名前はビアンカ・マーガレット男爵令嬢です」
「男爵令嬢って事はお貴族様?」
「はい、隣の領の小さな家ですが」
やばい、たださえ可愛いのにお貴族様となると緊張して何を話したらいいか分からない。どうしよう、何を聞けばいいんだ?好きな教科?僕は国語!
「えっと、それで何で荷台にいたんですか?」
「実は私、逃げているんです」
「逃げる?誰からですか?」
「ゲースク・ズヤーロ伯爵からです」
誰だそいつ、そもそも貴族の名前なんて誰一人知らない。ここの領主も知らない僕なんだから当たり前か。
「その誰ですか?ゲースクさんは」
「ここの領主です」
ここの領主でした。
あー思い出してきた、あの小太りの偉そうなおっさんか。ぼんやりと顔が浮かんできそうでこない。納税して以来うっかり会うのが怖くて屋敷周りは避けていたんだよな。
「あの?貴方の名前をお聞きしても?」
「あ!はい、ヒカルと言います」
「ヒカル様、どうか私を逃してもらえませんか?」
「何処に?」
「隣の領のルーメンデス領です」
さっきから聞き慣れない名前ばっかり出てくるから何が何だか分からない。そもそも逃していいのか?僕は何らかの罪に問われないのか?
バックミラーを見ると兵士が馬に乗ってこちらに向かって来るのが見えた。
「ズヤーロの兵士です!お願いします!ここから逃してください!」
「ええい!分かりました!」
僕は考えるのをやめた。とりあえず可愛い女の子は助けるのが異世界でのお約束だ。
軽トラのエンジンを再びかけて走り出した。
「こうやって、シートベルトを着けて下さい」
ビアンカに運転しながらシートベルトの指導をした。ゆったりとしたドレスを着ていたから分からなかったがビアンカさんは巨乳である。シートベルトが胸の谷間に入り巨乳が強調された。童貞にはいささか刺激が強すぎる。
前を向いて運転しないといけないのにチラチラと巨乳を見てしまう。あまり凝視するとバレるのでバックミラーを確認するフリをしたり、わざとギアを調整する時に見たりと、あの手この手でチラチラ見た。
ビアンカさんは後ろを見ながら追い付かれないか心配しているが僕はそれどころじゃない。振り返る時にギアを握っている左腕に巨乳が掠める。
やばい!軽トラのギアじゃなくて僕の股間のギアを握りたい。バカヤロー。
生き地獄だ、いや天国か?気が気でない。全神経を左腕に集中させてながらの運転だ。よかった、街道に誰もいなくて。こんな状況で街中を走っていたら事故ること間違いない。
僕の股間のギアがバレないように不自然に足を寄せて運転していく。
「追いつけないみたいです。ありがとうございます」
「いえ、よかったです」
「どうして?足を寄せているのですか?」
「ああ、軽トラってこういう風に運転もするんです」
「そうなのですね」
よかった、軽トラを知らないで。今の僕の状況を知られたら軽蔑するだろう。
僕だって狭い車内で隣の奴がギンギンなら怖くて降りてしまうだろう。だから隠し通すのだ。ビアンカさんが怖がらないように。
エスコートするのだ、なんてたって僕はセクハラドワーフと違って紳士なのだから。
「それで何でゲースクから逃げてるのですか?」
「ゲースク伯爵と結婚させられるのです」
「結婚!あのおっさんと!」
「ええ、歳は三十程離れています」
犯罪だろ、どう考えても。それともこの世界では普通なのか?それにしても恐ろしい。
「その結婚が嫌になって逃げてるってこと?」
「はい、マーガレット領は多額の借金があり、私の両親は私を嫁がせる代わりに借金を肩代わりしてもらう算段なのです」
「それはあんまりですね。でも隣の領に逃げてその後どうするのですか?」
「目的地のルーメンデス領には私がお慕いしているメッサジェント様がおります。彼とは婚約も済ませているのですが、ゲースク伯爵が横槍を入れてきたのです」
話を聞けば聞くほどゲースクのおっさんはゴミクズ野郎なのが分かる。
そして婚約者がいたのね。まあ分かってましたけどね。こんな可愛い女の子がモテないはずがない。ああ、本当異世界に来ても現実は残酷ね。でも助けますよ、なんてったって紳士ですから。
「分かりました。ルーメンデス領まで送りましょう」
「本当ですか!」
「その前に後ろの荷物をドワーフの里に置いてきてもいいですか?」
「構いません。本当にありがとうございます」
ビアンカさんは深々と頭を下げた。頭を下げると胸の谷間が見えそうになる。いや、見えた確実に谷間らしきものが見えた。そう信じたい。信じる事の大切なのだ。信じるものが救われるのだ。
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