開花

パキィ。


 どこからともなく、この世界の壊れる音がした。私がに触れてしまったからだろう。


 砕けたひび割れは、どんどん拡がり、暗闇の方へと覆う。



 望んでいた最後は、こんな形じゃないけど構わない。


 元から悔いのない別れなどない。そこに「もっと居たい」という感情が交ざっているのなら、悔いのあるものとして残る。


 それでも、この別れが次の出逢いに繋がるきっかけになって欲しい。

 夢の中で終わる些細な欠片となろうとも、私は。


 あなたが次のに出逢うことを、物語として綴りたい。


 だから。



『もう、あなたは何も言わなくていいよ。ただ見てて欲しい』


 


 そっと信じていて、あなた。





 現実だけがつきまとう世界は。

 脆くて弱いくて、節々は折れ曲がった醜い生き物。

 そこにいる私の身体は。

 成長が止まった、あなたと寄り添えない身体。

 

 この世界では、私は綺麗な花。

 この世界では、真っ直ぐに在る身体。


 


 奇跡なんて今でも半信半疑だけど。



 まるでこれは、花開くような慈しみだと思える。




 遠くに遠くに歪んで行く、夢現ゆめうつつなあなたへ。

 お別れと、そしてまた逢うときまでのキスを。


 

 一息置いて、あなたの口元に。



『愛してるから』と。



 触れた唇にそう、私とあなたは再びなぞった。

 




 








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花開くような、慈しみを。ください。 那須茄子 @gggggggggg900

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