第16話 地の王
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ジョージがペンダントを満足げに撫でると、先を歩いていたエルピダとディーンの2人が立ち止まりジョージを見ていた。
「ん?どうした?」
「後ろで急に大きな魔力が高まったので、びっくりしたんです」
「そうだよ、あんなデカいのが急に出たらビックリすんだよ」
「あ、そうか。ごめん」
ジョージは素直に謝ったが、ディーンは不満げだ。
「謝りゃいい……ぐえ」
「ジョージ様、何をしてたんですか?」
「あ、あぁ。これ、作ったんだ」
ジョージは脇腹を押さえうずくまるディーンを見てから答えた。
手には先ほど即席で作った地の魔術武器がある。
4色に塗り分けられたそれは、ステラ派のペンダントの面影がどことなく残っている。エルピダは不思議な顔をする。いつの間に色を塗ったのだろう。
「それは?」
「魔術武器というんだ」
「武器、ですか」
不思議そうにエルピダが繰り返す。杖や指輪のような魔術に使う道具は「武器」という名とイメージが遠い。
「そうだね。武装、身を飾る物、威光を示す物。そういう意味合いが強いかな」
ディーンは口を挟めない。正直、魔術や術師などと遠い貧乏人のディーンにはそれについて行ける教養が無い。しかし、ジョージが立場が上なのは伝わる。
ディーンにとってエルピダは「凄い人」だ。知らない知識、知らない技。でも気取ったところも無く神殿の奴らより、お話の聖職者らしい。
そのエルピダが、明らかにジョージを上位者と見ている。
「……お前、何もんだよ?」
「まぁ、魔術師、ですかね」
少し自信の無いような口調でジョージが返事をし、4色に塗り分けられたペンダントを握りしめる。
「Hagiós Poreutés tis Ierás Archís、"神聖なる始まりの旅人"の名において」
突然。
ジョージから恐ろしいほどの魔力が吹き出した。
ディーンも、虚ろの杜からジョージを見て来たはずのエルピダも一瞬、表情がこわばる。
「地の精霊、ノーム(Gnome)の王Ghob(ガーブ)の名において、秘されし宇宙の主の名において。集え。そして我が意に従え」
フード付のローブを被った人影が地面から生えてくる。大きさは30cm程。しかし、その圧は精霊の家出身のエルピダでさえ滅多に感じない物。
一方ジョージは、あっさりと喚起が行えたことに驚いていた。呼び出す際に元の世界の神の名を使わず、自分の名を使った。思わず口をついて出たのに上手く行った。理性は疑問を提示しても魂はそう感じ無い。
「じゃ、行ってみようか」
ジョージが幾つかの魔術。というより、ラノベで読んだような魔術を思い浮かべる。精霊はその意を汲み、魔術を発動させる。
「精霊が、完全にジョージ様に従っている……。代償も何も無しに」
広場の端に幅10m、高さ3m、厚さ2m程の壁が生える。
そこにたくさんの小さな影がすさまじい早さで突き進む。地球の人間ならショットガンを思い浮かべるだろう。
土壁に穴が開いた。
次に先端が禍々しくねじれた槍が打ち出された。ドリルだ。
ショットガンより深く槍が潜り込み、全てが見えなくなる。
「じゃ、最後は」
何故かジョージのつぶやきはディーンとエルピダにハッキリと聞こえた。
次の瞬間、壁より大きな岩がその上に浮かんでいた。
「あいつ、笑ってやがる」
今までディーンが見た魔法とは明らかに違った。街の魔術師の呪文とは全く違う。質の異なる力が、そこに顕現していた。
「これが地の魔術……。ケテルの光の魔術とは違う力です」
エルピダがそう呟けば、巨大な岩は土壁を完全に押しつぶしていた。
ジョージの魔術にエルピダは目を輝かせている。ディーンには、その姿が眩しすぎた。
「どうかな、これなら魔物退治にも使えると思うんだけど」
「もちろんですとも、ご主人様!」
エルピダの声音にディーンはいらつくことも無い。ディーンは呆然と立ち尽くしていた。昨日まで見下してぶん殴った相手が、こんな力を持っていた。
「じゃあ、行きましょかね。魔物退治」
ジョージの軽い声とエルピダの返事に、ディーンは我に返る。しかし足が震えていた。恐怖ではない。興奮だ。これから始まる冒険への期待に、胸が高鳴っていた。
「待てよ、俺も行く」
「はぁ!? もう帰れって言ったでしょ!?」
エルピダの声に、ディーンは思わず笑みを浮かべた。確かにジョージとエルピダは自分の手には負えない存在かもしれない。でも、だからこそ見ていたかった。
この二人が起こす奇跡を、この目で確かめたかった。
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