第13話 疑念と疑問

「お、喧嘩か!」

「エルピダだったか、良いパンチじゃねぇか!」


 周りはやんやとはやし立てるが、ジョージは何が何だかさっぱりだった。エルピダが自分を主人だと紹介したこともそうだし、いきなり殴りつけられたのも、床にたたき付けられたのにどこも痛くないことも。


 その後、いきり立つエルピダを中から出てきた係の人と一緒に押さえ、ジョージに突っかかってくる少年をいなしながら何とか場を納める。

 そして落ち着いたエルピダとディーンという少年と共に、面接用のボックス席みたいなところに押し込められた。

 そのジェストという中年の係員は、河童ハゲの天辺をかきながらディーン少年の方を向いて口を開く。


「で、何だっておめーは、そっちの金髪の?」

「あ、ジョージです。」

「ジョージを殴ったんだ?」

「言いたくねぇ。」

「つってもよ、俺も報告書書かなきゃならんのよね。理由が分かりませんじゃ通らねぇんだわ。」

「俺は困らねぇ。」

「……そういう事じゃねぇんだけどな」


 しばらくジェストとディーンは話をしたのだが、この調子で話が進まないのでジェストはいったん別の話をすることにしたようだった。


「で、えーっと、その嬢ちゃんは、どんな要件だったんだ?」

「エルピダです。こないだも聞きましたよね?」

「人の顔覚えるの苦手なんだわ」

「……まぁいいですけど。これて見て貰えますか?」


 ジョージは、窓口がそれで良いのかと思ったし、エルピダも思ったようだったがスルーしたようだ。エルピダは昼間殺した賊達から回収した物のうち、ドッグタグのような物を取り出した。


「ん?こりゃ、冒険者ギルドうちのタグじゃねぇか。どうしたんだ?拾ったのか?」

「違いますよ。こちらのジョージ様を襲ってた所を倒したんです」

「ジョージ様?この金髪は貴族なのか?」

「それが、ジョージ様は可哀想なことに記憶喪失みたいで」

「あぁ、そりゃこの見た目だ、酷いことされたのかもなぁ」


 いつの間にやら、ジョージは貴族だったが家臣に売り飛ばされ、流れ流れたところで賊に襲われ危機一髪エルピダに救われたが記憶も何もかも失ってしまった、というカバーストーリーが成立していた。

 ジョージもさすがにツッコミどころが多いように思えたが、当の2人は納得してるようだし、ディーンも何やらジョージに同情してるしで、今更どうにもならないようだった。


 その後もジョージを除いた3人は色々と話しているようだったが、この世界に来たばかりのジョージには分からない。それより考えたいことがあった。


 まず、自分は何者なんだろう。

 別に自分探しをしたいわけじゃ無い。

 神殿が崩壊し、アインに呼び覚まされ、虚ろの杜の廃神殿へ降り立った。

 つまり、一度死に、生まれ変わったというわけだ。

 しかもどうやら金髪で美形らしい。地球の精神世界である神殿で出来たことより凄い現象を起こせる事が分かった。

 基本術式であるカバラ十字は周辺を一気に聖域化した。物理的にも綺麗になった。

 第一のセフィラであるケテルからエネルギーを≪≪流出≫≫させ、レーザービームとする事ができた。実際に人を殺せた。

 最後に人が倒れてきたとき、ジョージはこの世界のリアルを感じ、自分がリアルになったと思った。


 でも、1日歩いても痛まない足と足の裏。舗装もされていない土の道を歩けば石を踏むのも当たり前なのにちっとも痛くなかった。戦いを終えてネメアに辿り着いてもまだ余力があった。

 冒険者ギルドに入ってディーンに殴り倒されたけど、ちっとも痛くなかった。衝撃があって踏ん張れなかったから倒れただけだ。倒れたときも痛くなかった。結構な勢いだったのに。


 多分、自分の体は普通じゃ無い。ジョージはそう結論づけた。

 ディーンに殴り倒された自分は特に痛むところも無かったが、同じくらいの勢いでエルピダに倒されたディーンはしばらく立ち上がれなかったからだ。ひょっとしたらエルピダの方が強いだけどという可能性もあるが。


 何にしても、自分のことをもっとよく知らないと、生きていくのは難しい。そこをエルピダとよく話しあうべきだとジョージは結論づけた。

 幸か不幸かジョージには隠すことも無いし、エルピダは何故だかジョージを信じている。いくら預言があったからとはいえ信じすぎだと、ジョージは思って居るが。


「ジョージ様、終わりましたよ」


 ジョージが色々と考えながら周囲をぼんやり見回していると、急に袖を引かれた。エルピダたちの話しは終わったらしい。見れば、テーブルの上には何やら硬貨が置かれていた。青っぽいのと、白っぽいのと、黄色っぽいの。


「宿代もできましたし、行きましょう。晩ご飯は宿で食べますよ。」

「あ、うん。分かった。」

「それじゃジェストさん、ディーン。また。」

「おう、またなエルピダさん。」

「お、おう。ジョージ、悪かったな。」

「あ、いえ、大丈夫です」


 ディーンの謝罪を、つい受け入れてしまうジョージであった。

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