第10話 血の試練

「なぁ、あれじゃねぇか?」


 固まって歩いていた男達の一人が指さした。

 真ん中を歩いていたまとめ役が手をかざして見定めると、確かに虚ろの杜からこちらに歩いてくる人影が二つ。


「確かに一人は、女のガキだが……。もう一匹男のガキが付いてやがるな」


「どうするよ?」


「捕まえろって言われたのは一人だ。ヤっちまっていいだろ。」


「なんだありゃ?体に巻いてるのは毛布か?」


「あの年で男を引っかけてくるたぁ、大したアマだな!」


「コツでも聞くか?」


「ギャハハ!そりゃ良いな!」


 下品な笑い声が上がる。間違っても失敗するとは思ってない。

 昨日の朝逃がしたときには冷や汗をかいたが、やはり近くに隠れて居た。変な男のガキが居るのは考えてなかったが、す巻きで何も持ってない。ただの浮浪者だ。

 近づいてみれば顔は良さそうだ。売っぱらっても良い。


 ちょっとした岩と段差に陣取ってるが、こっちは五人、あっちはガキ二人。直ぐに終わる。そう思いながら近づけば、男のガキは後ろに下がって隠れる。追い剥ぎ達はまた笑い声を上げた。

 依頼にあった女のガキが剣を抜いて構えて前に出た。男のガキは頭上に灯りでも掲げているのか光っている。


 一人、男のガキに走って行くと、直ぐにこけた。追い剥ぎ達は倒れた仲間を馬鹿にしながら女のガキを半包囲する。

 段差があって完全包囲は出来ないがなんて事は無い。


 まとめ役は倒れた奴が起き上がってこないことにいらつき、後で絞めてやると決めた途端、急に太陽が目に入った。


 足が熱い。痛い熱い。そう思ったとき、まとめ役の意識は途絶えた。


 ジョージは頭上のケテルからレーザービームを打ち込む。一発目は自分に向かって走ってきた追い剥ぎの腹。続けて、二発三発と草むらに倒れた奴に剣指を向けてレーザービームを打ち込むと動かなくなった。

 追い剥ぎの仲間は勘違いして笑っていたが、ジョージはそれどころでは無かった。

 エルピダはまず注意を引き、なるべく長く引きつける。

 その間にジョージは、その間になるべく多くの追い剥ぎにレーザービームを打ち込み、倒せなくて良いからとにかくダメージを与える。

 そういう打合せだった。

 しかし、一人目は動かなくなり、ジョージは欲が出た。

 二人目、リーダーっぽい奴の足に向かって数発打ち込み、止まったところで上半身に向けて打ち込む。

 三人目にレーザービームを打ち込む時には、危なくエルピダをかすったが、思った通りに曲げられる性質で何とか避けた。

 ジョージはそこで急に醒めた。


 息が上がる。倒れているリアル死体。

 吐き気と魔術由来の高揚感。命の危険からくる高揚感。

 腰砕けになり、フラフラと腰を下ろしたところでまた音が戻って来た。


「ジョージ様!!」


 エルピダが一人を倒したとき、残った一人が叫びながら走ってくる。恐ろしい顔。


「チクショウ!このガキ!ぶっ殺してやる!」


 男が迫る。目の前で凶悪な顔をした男が刃物を振り上げる。

 動かさなければ死ぬと分かっていながらも、体は動かない。やっとのことでカタカタと震えながら、ジョージは腕を持ち上げ


「ウワーーーーーーーーーー!」


 叫び声を上げながら大量のレーザービームを打ち込む。レーザービームが目の前の男に何十と刺さり、男がビクリと跳ね、止まった。

 男は、ジョージにもたれかかるような格好で倒れ、ジョージは胃の中のものを吐いた。


 エルピダが追い剥ぎ達を調べている間、ジョージはそちらを見なかった。また吐きそうだった。

 ホントなら埋めないといけないのだと言われたが、その手段は無い。

 戦闘の前に有った妙に冷静な心は今も残っていて、パニックを起こしたもう一つの心をあやしている。やらなければならなかった。エルピダ一人では対処できなかったと思う。実際エルピダもフラフラだ。目に見えるような怪我は無いが、打撲の1つや二つはありそうだった。


 生き残った追い剥ぎから話を聞こうとしたが、上手く行かず、縄で縛って放り出すことにした。


 早く出発しないと、ネメアの門が閉まるらしい。

 ジョージはまだまだ動きたくなかったが、そうして座っていても何も解決しないことは分かっていた。状況は悪くなるばかりだろうし、エルピダに嫌われるのも嫌だった。


 二人が歩き出し、しばらくすると、エルピダがジョージに話しかけた。


「落ち着きました?」


「な、なんとか。迷惑かけてすまない」


「初めての実戦が人間相手で、数も不利。そんな状況で逃げなかっただけでもすごいですよ。私なんて、初めての時には怖くて何も出来ませんでしたから。」


 慰めてくれてるのは分かる。それでもジョージはうれしかったし、ホッとした。


「ジョージ様の魔法、すごかったですね。レーザービーム、ぐねぐね曲がるし、一度にたくさんでましたし。」


「あぁ、でも他に何が出来るか分からないから……」


「それでも討伐なら、楽勝です。あてにしてますよ、ジョージ様?」


「え?」


「それとも、私と一緒はお嫌ですか?」


「いや、俺は。……助かるよ。見捨てられるかと思ってた」


「ふふっ。ま、そこはお試し期間ってことで。よろしくお願いしますね。」


 ネメアの門が見えてくると、ぼちぼちと人が増えてきた。農夫のような人も居れば、武装した冒険者風の集団も居る。その中です巻きにしか見えないジョージは目立っていた。良く見れば、ジョージもエルピダも顔が良いコンビだ。


 門番に軽く説明する。エルピダはどうするか考えていたようで、ジョージを人買いに襲われていた所を助けたのだと話した。

 ジョージは事情も分からないから適当にうなづいているだけだったが、無事に幾らかお金を払うと門を抜けることができた。


 門から見ると、中世、というよりは近世、所によってはもっとあか抜けた感もある風景だった。不潔な感じはしない。


「ネメアにようこそ!」


 門番の決まり文句に送られて、二人はネメアの街に無事に入った。

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