第一章 異世界参入編
第3話 魔術師再誕
チートスキルを、と言われたが丈司にとって難しい問題だった。
アインは例え全知全能であっても与えると言い出したが、それはさすがに止めた。
「何故私にそこまで?」
「そうですねー。あなたはとても珍しい
「まれびと、客人信仰ですか」
「私は福の神というわけですね」
「そうです。他の宇宙からやって来た客人など、この宇宙では初めてですから、歓迎するしか有りません。」
「この宇宙にも同じ物があるのは面白いですね。」
「ええ、誠に。ですから私があなたを懇切丁寧、手取り足取り便を図るのは当然なのですよ。」
「しかし、全知全能はやりすぎだと思いますよ、アインさん……」
その後も話し合いを続けた結果、丈司は魔術師らしい能力を貰う事になった。後いくつか、行った先で必要な物が追加される。
客人なのだから、簡単に死なれても困るし、誠意を尽くしたいと言われると丈司も否とは言えない。
別に丈司も自殺願望があるわけで無いし、チートが欲しくないわけではない。しかし突出しすぎると面倒になりはしないかと思うだけだ。
会社でもそうだった。目立ちすぎると責任が増えて管理職になり、現場から遠ざけられる。丈司はプログラムが作りたかっただけなのに、管理職になり書類仕事ばかりが増えた。なお、給料はちょっとしか増えなかった。
「まぁ良いでしょう。行った先を楽しむだけなら、全知全能が不要というのは分かります。答えの見えた冒険はすでに冒険では無くなってますからね」
「では、後はお任せします。」
「このアインにお任せあれ。では行き先の肉体に転送いたしましょう。」
「……まぁいっか。ではよろしくお願いします。」
「ええ」
同時に丈司の視界が白く染まる。ゆっくりと意識が薄れ、へその緒と肉体が繋がる感覚。とても強く大きな力を感じる肉体だ。この後、どのようなことが起こるか分からないが、一度は無くした命を楽しもうと丈司は決心した。
丈司を送り届けた後、アインはしばらくじっと立ち尽くしていた。
「あの方が私を作ってまでもてなす客人。彼は何をもたらすのでしょうね。待遇に相応しい客人なのか、しばらく観察させて貰いますよ……」
アインの姿が蜃気楼のように、揺らめき、透明になっていく。数秒でアインの姿は消えた。
そして白い部屋も少しずつ黒くくすみ、真っ黒になり、消えた。
残ったのは、ただひたすらに灰色の空間だけ。
丈司が再び意識を取り戻したとき、真っ暗な狭い場所だった。身を起こすことも、腕を広げることも出来ない狭い場所で、周囲は恐らく石で出来ているようだった。
「まるで
声を出すと、変声期前のような少年の声が聞こえる。
丈司は自分が転生したことを悟り、感慨に耽る。
自分がいた宇宙が滅んだと告げられた事が胸に染みる。本当にもう帰れないのだろうと、思うと、急に寂しくなってしまった。
そもそも、何故宇宙が滅んだのか、自分はここで蘇生したのか、実は聞いていなかった。ただ事実として信じてしまった。
何かアインに誘導された気がしないでもないが、何にせよ取り返しは付かない。動くしかないのだろう。
まず、ここから出る事が先決だ。
最初ひんやりと感じていた床は、いつしか冷たく、痛くなってきていた。このままここにいるのなら、凍死してしまいそうだ。
「さて、この重そうな蓋、元の体ならびくともしそうに無いけど……」
動かないのなら、いきなりゲームオーバーだ。まさかそんな事もあるまいと、丈司は気軽に押してみた。
石棺は簡単に動き、外の空気と光が入ってくる。
気温も光も春のような暖かさだが、少し埃っぽく、ちょっとかび臭い。
天井には、何かキリスト教の教会の天井画のような絵画が見える。《知らない天井》では無さそうだ。実際には初見なのだが、ネットミームとは違う。
「あぁ、再誕か。この世界への
丈司はそう呟く。参入儀式とは魔術結社に入会するときの儀式だ。これまでの自分が一度死に、魔術師として生まれ変わる儀式。HelloWorldとは初めてのプログラム言語で初めてのプログラムを作るときのお約束。ただ単に「HelloWorld」と表示するだけのプログラムだ。
丈司はアインの粋な贈り物に、少し感謝する。
確かに自分は生まれ変わったのだと、覚悟が決まったのであった。
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