劇場

あかり

第1話

ブラウン通りに並ぶ建築物の朽ち果てた外観は、頃き始めた太陽によって長い影を地面に投げかけている。サミュエルは、バス停の近くにある風化した木製のベンチに身を委ねていた。隣に置かれたビニール袋には、スーパーマーケットで持ち帰ってきたパンとスープ缶がひっそりと収まっている。道路を挟んで反対側では、バーンズ夫人という名の老いた未亡人が、生気を失いつつあるバラの花に水を与えていた。その顔立ちには、長い人生を経て得た孤独が深く刻まれていた。サミュエルはその風景に何か共感を覚えながらも、すぐに目線を逸らし、新聞を広げた。

そこでは新しい戦争、新たな大災害、そして新世代のテクノロジーが勝利が高らかに覚言されている。しかしながら、彼の心を惹きつけたのは、ページの隅でひっそりと報じられる、古き良き劇場の閉鎖についてだった。「デジタルの波には抗えず」という言葉が、時代の無常を物語る。サミュエルは新聞を丁寧に折りたたみ、静かに古い劇場の方向へと足を運んだ。彼の背中には、太陽が慈悲の光を投げかけていた。

建物は、かつての華やかさを色褪せた外壁に隠し持ち、今や無数の亀裂がその歴史を語っている。しかし、閉ざされた扉の向こうには、数え切れない物語と共に過ぎ去った時代の響きが静かに息づいていた。


エミリーとはこの劇場で多くの時間を共に過ごした。劇場は、彼らにとってお互いを見つめるのにちょうどいい明るさと静けさで、光が徐々に薄れていくごとに、世界の喧騒から2人で離れ、扉を一枚一枚閉めていくように感じられた。エミリーは彼女の感情を、いつもその静かな立ち振る舞いで表現していた。しかし、劇場での彼女は普段は見せないような様々な表情を浮かべ、サミュエルはその横顔を眺めるのが好きだった。彼女が舞台を見つめる目の輝きは、今でもこの世で最も美しいものの一つだ。時折目に涙を溜めていることもあったが、そうした時、彼女はわざと咳き込んで泣き顔を誤魔化す癖があった。劇が終わり、観客たちが一斉に立ち上がるとき、二人はいつも最後の瞬間まで席に留まり、静けさを楽しんだ。エミリーは、演じられた物語の余韻に浸りながら、しばらく動かない。エミリーが自分自身を完全に開放し、感情を素直に表現できる稀有な場所が、この劇場だった。彼女の存在そのものが、サミュエルにとっての劇場のようなもので、彼女を通じて、彼は人生の様々な感情を体験し、理解することができた。彼女との日々は、若さの特権である楽観主義に満ち溢れ、永遠に続くかのように美しかった。劇場は狭く席は窮屈すぎたが、その窮屈さこそが彼にとっては愛の象徴だった。


かつての時間の余韻に浸りつつ、しばらく舞台の方を見つめていたサミュエルは、最終的には席を立ち、人影のまばらな通りへと戻った。愛も夢も、そして空に輝く太陽さえも、永遠ではない。夜の帳が降りる中、スープ缶とパンを手に家への道を歩みながら、その事実に彼は奇妙な安堵を感じた。周囲の世界が崩れゆく中で、彼自身はまだここに立っている。この世界はすべてが一時的なものだ。しかし、その中で得た記憶は不滅の光として心に小さく灯り、彼を導いている。人生とは、常に変化し続ける舞台の上で一幕一幕を生きることだ。太陽が沈むことで星が輝きを増すように、終わりとは新たな始まり、新たな物語の幕開けを示しているに過ぎない。彼は、過ぎ去りし日々の重みを背負いながらも、一歩一歩を確かに進めていく。全ては変わりゆくものだが、その変化の中にこそ生の本質があると信じて。

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