第47話 正体判明!?
転移魔法による『門』を潜った先で、悟とエリザはドサリと倒れ込んだ。硬い床が軋む音が響き、軽い衝撃が走るが二人ともそんなものはお構い無しであった。
それだけ疲労が溜まっていたのだろう。
二人が『門』を通り抜けた後に続いて、黒兎が姿を現した。彼が来ている洒落た紳士服には埃だけではなく、数か所の穴が確認できる。
黒兎は黒兎で、先の一戦で相当な負担が強いられたことが察せられる。洗脳されたエリザの魔法から一般人を守る為に、魔法による障壁を出したこと。
悟がエリザとの戦闘に集中できるようにと、魔力をギリギリまで注ぎ込み結界魔法を行使したこと。
陰の立役者は黒兎と言っても、過言ではないだろう。
『門』が閉じると同時に、悟は呼吸を整えつつ視線を辺りに巡らした。転移先がどこであるか、ふと疑問に思ってしまったのだ。
床に突っ伏した顔が何とか持ち上げられる。黒色の瞳が周囲の様子を探る。
「えっ……ここって? 僕の部屋!?」
「アリスの部屋なの……? ここ?」
悟の目に映ったのは、見慣れた内装の部屋。教科書や参考書が半分以上を占める本棚に、中古のパソコン。見間違いようのない、悟の自室であった。
黒兎もよほど焦っていたのかもしれない。それで転移先が悟の部屋になったのだろう。内心驚きながらも、悟はそう結論づけた。
「へえ……アリスの部屋って、こうなってるんだ……。でも何だか想像と違う……」
悟の驚いた声につられて、エリザも首を動かして室内をキョロキョロと見た。そこで彼女は違和感を抱く。エリザが持っていた悟――アリスに対するイメージから、この部屋の内装は解離していた。
遊び心が感じられない部屋の持ち主は本当にアリスのような幼い少女ではなく、エリザと同年代の少年らしさを感じた。そんな疑問が浮かぶ中、エリザは更なる異変に気づく。
エリザは自身の服装が深紅のドレス姿から、学校指定の制服――セーラー服に戻っていた。つまり変身が解けていたのだ。変身することで受けられる恩恵――認識阻害が機能していないことをエリザ――利恵は悟った。
(どうせ本当の顔が見られるんだったら、もう少しムードがある状況だったなぁ……)
何とも言えない気持ちになる利恵に対して、悟は「えっ! 柏崎さん……!?」と驚愕に満ちた声を溢していた。その声に反応して、利恵は悟の方に目線を向けた。一つの疑問を抱きながら。
「どうして私の名字を知ってるの? ねえ、アリスと私って、会ったことがあったけ?」
「ええと……それは……」
どう説明するかを悟は額に汗を浮かべつつ、思考を巡らせるが適当な答えは思いつかない。「あー」や「うー」等といった不明瞭な声を上げるばかりだ。手詰まりであった。
二人のやり取りを静観する黒兎は、いつかは今のような状況が訪れるだろうと考えていた。当然ながら、黒兎は悟とエリザの変身前の素顔を知っている為、彼らが同じ中学に通うクラスメイトであることは把握していた。
その為、ふとした拍子で変身が解けてしまい、互いの正体に気づく可能性はあった。今まではそれぞれの事情を汲み取って、魔法少女としての姿でしか会ったことがなかった上に、黒兎から事実を明かすことはなかった。
しかしエリザ――利恵の変身は魔力切れによって強制的に解除されてしまい、悟は一目でクラスメイトであることを理解した。
一足先に正体を知ってしまった悟は、どのような行動を選択するのか。黒兎は静かに見守っていた。
「柏崎さん。僕は――」
「――はい、まだまだネタバレには早いよ。『■■■■■■』」
悟は決心した面持ちで、口を開き言葉を続けようとした瞬間。一人の少女の声が被せられた。悟に聞き覚えのある声――久留美の姿を騙った少女のものだ。
彼女の声が悟の背後から聞こえてくると同時に、部屋にいた全員の意識が遠のいていく。
「――そう言えば、まだ私の魔法の効果を説明してなかったよね? 私の魔法『狂った帽子屋』。それはね……人々の認識を狂わせるの。応用で記憶の改ざんもできるんだ。今日起きたことはいい感じに調整といたから」
久留美の姿をした少女――『帽子屋』は、その可愛らしい顔を苦々しそうに歪める。
「――それにしても、利恵を洗脳した『魔女』って相当趣味が悪い性格してない? ■■様の兄君も厄介事によく巻き込まれるよね……。まあ、今はぐっすり眠っててね。いい夢が見れますように」
『帽子屋』の魔法によって、三人の記憶の一部を書き換えられて、目を覚ました彼らは日常に戻っていった。
――――後書き――――
いつも拙作『TS魔法少女は魔法少女を救いたい〜虚構の魔法少女アリス』をお読み頂きありがとうございます。今回の話で、第一部は終了します。
引き継ぎ、お付き合いお願いします。
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