第33話 合流/不穏な影

 「君が珍しいね……。一個人に執着するとは。他の魔法少女に負けることがあっても、その場だけで話を終わりにするのに」

「別に……。少しだけ気に食わなかっただけ。自分でもよく分らないけど」



 玲香に報告が終わり、自身の意思を伝えた。黒アリスの対応は、自分に任せてほしいと。玲香――というより『連盟』としては、黒アリスの今までの動向から、無闇に刺激すべきではないと判断。

 危険思想を持つ『魔女』ではなく、ダイヤモンド・ダスト及びフレイムとの戦闘を除けば、戦闘行為は魔獣としか行っていない。

 と言っても、完全に無視する訳にはいかない。



 引き続き、黒アリスを『魔女』としつつも、極力不干渉を貫く方針を選択。そして、ダイヤモンド・ダストを含めた少数精鋭で、黒アリスの説得を試みる。

 そういう説明をダイヤモンド・ダストは受けることになった。



 ダイヤモンド・ダストが黒アリスに対して接触することを許可する代わりに、二名の魔法少女を同行させてほしい。それが玲香から出された条件であった。



 現在の彼女は、別の待機室にてその二名の魔法少女達を待っていた。



「……そう言えば、誰かと組むの久しぶり」



 備え付けの椅子に座り、ボソッと呟くダイヤモンド・ダスト。そんな彼女の心中を、それなりの長い付き合いになるスノーマンは察していた。

 ――その感情とは、困惑であった。長期間一人で活動していた彼女が、二人の人間と組むのに戸惑いを覚えているようだ。



 そうしている間に、待機室に誰かが入ってくる。ダイヤモンド・ダストが視線を向けてみると、見覚えのない二人の少女の組み合わせであった。

 アクアとフレイムだ。彼女達自身の要望により、黒アリスの対応にあたることになった。



「アクアです。よろしくお願いします」

「フレイムだよー。よろしくね」

「……ダイヤモンド・ダスト。よろしく……」



 各々挨拶を交わす三人。同年代の少女とはいえ、この一瞬だけで各自の個性が垣間見える。



「黒アリス対策同盟結成だね!」



 初対面で最初の挨拶以降、沈黙が満ちていた待機室の中に、フレイムの無邪気な声が響く。

 自然と顔が綻ぶのに気づかず、ダイヤモンド・ダストは今後の方針の話し合いを始めた。



 契約者達が、話し合いという名の会話に話を咲かしている様子を、妖精達は満足そうに見守る。



「――ダイヤモンド・ダスト。良い顔をするようになったね」



 小さい雪の妖精は、過去の契約者を思い返し、優しい声で呟いた。





「――ふーん。『黒アリス』ね。面白い子が出てきたみたい」



 とある『魔女』の魔法によって、作成された異空間。神秘的にも、狂気的にも感じ取れる雰囲気の現代風の町並み。それが異空間の様子であった。

 現実の大都市一個分に相当する広さを保有しており、施設や設備等も、現実に準じていた。

 


 無人のゲームセンター。様々な機種の電子音が織り成す不協和音が満ちるそこに、一人の少女はいた。彼女の名前はメフィスト。子悪魔を連想させる衣装に身を包み、腰から伸びる尻尾が自由に動いていた。



 ――『悪魔』の異名を持つ『魔女』。連盟から警戒されている『魔女』の一人だ。そんな彼女の視線は、片手に持つスマホに集中していた。

 画面に映し出されているのは、魔法少女に関する情報が載ったまとめサイトであった。『連盟』が運営する公式のものではない為、その情報に信憑性をあるかは定かではないが。



 そしてメフィストが見ているのは、今巷で世間で話題になっている『魔女』の一人、黒アリスに関するものであった。『アリス』という単語に関連した使い魔を無数に使役する魔法を用いて、ランキング上位の魔法少女――ダイヤモンド・ダストを打倒した人物。

 極めつけは、その契約妖精は『契約者殺し』の異名を持つ黒兎。メフィストの興味は完全に、黒アリス一人に注がれていた。



「――はあぁ。私も会ってみたいな。待ってね、黒アリス」



 頬を赤らめて、恋をする乙女のようにため息を吐くメフィスト。彼女以外が無人の空間に、黒アリスに向けられた純粋ながらも、黒く淀んだ感情の籠もった言葉が静かに響いた。





「ねえ……本当にやる気?」

「吾輩からも何度も言ったんだが、アリスは聞く耳を持たないんだな……」



 深紅のドレス姿の少女――エリザと、洒落た黒色の服を着た二足歩行の兎――黒兎。その二人は街から遠く離れた場所に来ていた。

 周囲には事前に、黒兎による結界魔法を張っており、これから行おうとする『儀式』が『連盟』に感知されないように手をまわしていた。



(まあ……前みたいな『アクシデント』が起こらないといいんだけどな……)



 黒兎は『前回』の――エリザと悟による模擬戦について思い返す。魔法を使う上、というより戦う上での覚悟を実戦形式の手合わせを通じて学ぶ。そういう主旨の元に、行われた模擬戦だったが――。



 悟の魔法が暴走してしまい、短時間ではあったが正気を失う羽目になってしまった。その際に召喚されたチェシャ猫と、ハンプティ・ダンプティ。

 共に強大な力を有しており、その後結界が壊されたことで異変を察知してやってきた魔法少女二人をチェシャ猫単体で圧倒した。

 ハンプティ・ダンプティは従わずに消えていったが。



 黒兎は視線を前方にやる。二人から少し離れた場所で、悟は黒アリスの姿に変身した状態で、意識を集中させていた。彼の周囲には、魔力に関しての才能がない者でも気づく程の魔力が満ちていた。



(今回悟がしようとしていることは、あの『腕』の持ち主の完全召喚……)



 悟が召喚できる使い魔の内、ハンプティ・ダンプティと、未だに正体が不明である『腕』の主は使役できているとは言い難い。

 無理やり魔法を暴発させることで、『腕』の主を呼び出して、従わせる。そういう試みであった。

 ちなみに、あの卵男は悟が生理的に受け付けず、後回しにされた。



 エリザはサポートで来ており、今悟は魔力を集中して貯めている。それが一定ラインに到達した瞬間に、一気に解放して、魔法を暴走させる。



「――『■■の■の■■・ジャバウォック』」



 悟の魔力の暴発によって、影から一体の異形が引きずり出された。



「――悪竜退治の開始だね」

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