第16話 黒アリスは魔女
『黒アリス』の契約妖精である黒兎。『連盟』にあるデータベースや、他の妖精から得られる情報の全てで『碌でもない』と結論づけられている妖精だ。
行動原理は不明。過去に何人もの未登録の魔法少女を生み出す。その契約者を何れも死亡しているのか、一定期間の活動した後姿を確認していない。
――故に命名されたのは、契約者殺し。
妖精としては、これ以上にほどにない程不名誉な二つ名。
この場にいる全員が現在の契約者である『黒アリス』も、歴代の契約者と同じ末路を辿ることになると予想していた。
「――君達も十分承知していると思うが、野良妖精と契約してしまった魔法少女の保護も、我々『連盟』の義務だ」
上司の言いたいことは二人は察した。『連盟』の保護下にない魔法少女の末路は、往々にして悲惨なものだ。『魔女』認定を受けた魔法少女達も、『連盟』で確保ができた場合は社会復帰できている。
しかし魔獣との戦いで命を落とす割合は、『連盟』所属の魔法少女の数倍以上にもなる。
「――当面君達には『黒アリス』の保護にあたってほしい。しかし一度でもフレイムと戦闘してしまった為、周りに示しがつかないからな。それに同時刻で発生した『魔女』エリザによる支部の襲撃事件。両者が裏で繋がっている可能性を考慮して、『黒アリス』を暫定『魔女』とする」
■
「有栖川君……今日元気なかったな……」
恵梨香は風呂上がりでベットに横たわっていた。
彼女が考えているのは、幼馴染である悟のことだ。妹の件もあり、魔法少女に関しての話題があまり得意ではない彼だ。
魔獣だけではなく、実物の魔法少女まで現れた。過去のトラウマが刺激されてしまった可能性もゼロではない。
そう思いながらも、彼女自身も悟に対して魔法少女についての話を何度も振ってしまったが。
「でも……実際の魔法少女見られて最高だったなあ」
昼間に出会った三人の魔法少女。フレイムとアクア。そして、恵梨香を直接助けてくれた黒色のエプロンドレス姿の魔法少女。
恵梨香の知識の中には、その魔法少女についてのものはなく、帰宅した後インターネットで調べてみても結果は同じであった。
無表情のまま、淡々と魔獣を処理していく姿。人形のように整った容姿。
他の魔法少女と比較しても、異質な雰囲気。
情報がないことを考慮すると、魔法少女に変身したばっかりの子だと推測できる。
けれどあの外見から想像できる年齢は、どれだけ高く見積もっても小学校高学年だ。
そのぐらいの年頃の魔法少女はいないこともないが、『連盟』が把握済みな数から言うと、珍しい部類に入る。
偶発的に変身することがあっても、本人の意思や保護者の意思を尊重して、妖精との契約を破棄する場合が多い。
それでも『魔女』として活動している少女もいるようだが――。
「あの子……どこかで会ったような気がするけど、気のせいかな?」
恵梨香の中で解消されない一つの疑問。初対面であるはずの少女に対して、謎の親近感のようなものを恵梨香は抱いていた。
自分の窮地を救ってくれたことに対しての感謝か、吊り橋効果が機能した思慕の錯覚か。
その答えを出すには、恵梨香の人生経験は短すぎてしまったが。
「何だか有栖川君に似てたような気が……やっぱり私の思い込みなのかな?」
恵梨香の疑問に答える声はもちろんなく、窓から入ってくる車が通り過ぎていく音が響くだけだ。
見知らぬ少女を幼馴染に重ねる理由を探す為に、恵梨香は思考の渦に没頭した。
性別は当然ながら違うし、年齢や背恰好もまるで異なる。共通点などほぼないに等しい。しかし、長年悟との付き合い――あくまでも幼馴染としての――がある彼女にだけ感じられたものがあった。
それは視線だ。言葉として表現しにくいけれど、普段から有栖川悟という人間が恵梨香を見る際の親愛が、精巧な人形の如き無表情から向けられた。そんな気がしたのだ。
ただの思い込みかもしれないが。
「もう一度会えたらいいなあ……。あ、もしかしたら昼間の件がニュースになってるかも!」
結論は結局出そうになかったが、まずは目標の人物の情報を集めることから始めなければ。そう思い立った恵梨香は、机の上に放置していたスマホを取りに行き、検索エンジンを起動させた。
脳内に即座に浮かんだ単語を入力する。『魔法少女』、『アリス』と。二つ目の単語に関しては、完全に見た目から連想したものだ。
「あ、あった!?」
駄目元であったが、恵梨香の考えは的中した。検索結果のトップには、彼女の思考回路の半分を占拠する人物に関してのニュースが載っていた。しかしそれは恵梨香が想像していた、『魔獣を颯爽と倒した謎の魔法少女!』という趣向の記事ではない。
――『魔女』黒アリス。『連盟』所属の魔法少女フレイムと戦闘後、逃走。
それが恵梨香の目に映った、記事のタイトルであった。
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