第14話 魔法少女から魔女へ

「う……」

「あ、ようやく起きたんだな!」

「ん……黒兎か」



 悟が目を覚まして、最初に視界に映ったのは喋るぬいぐるみ――ではなく、ひょんな事から契約することになった妖精である黒兎であった。



「ここは……? 僕の部屋?」

「そうなんだな。『連盟』の魔法少女――フレイムとの戦いの後、悟は気絶しちゃったんだな。吾輩が転移魔法を駆使して何とか運んで、しばらくしたら悟の変身も解除されたんだな」



 悟は自分の体に視線を落とす。黒兎の言う通りに、悟の肉体は男のものに戻っていた。



「調子は大丈夫なんだな?」

「うん……」



 黒兎に体の調子を尋ねられた悟は、見慣れた手足をベタベタと触り、感覚を確かめる。



「特に変わったことはないみたいだよ」

「それならよかったんだな……」



 心底安堵したように、深く息を吐く黒兎。それを見て、悟は余計な心配をかけたことを申し訳なく思った。



 窓からさしてくる日の光はすっかり茜色に変わっていた。路地裏での魔獣及び、フレイムとの戦闘からそれなりに時間が経過していたようだ。



「……それで今後のことなんだが、少し不味い事態になったんだな……」

「ん? どういうこと?」

「ネットニュースを見てもらった方が、口で説明するよりも楽なんだな」



 妖精である黒兎の口から出てくるには、違和感のある単語に少々引っかかりを覚えながらも、悟は倦怠感のある体をベットの上から起き上がる。



 そのまま勉強机の方まで行き、隅に置いてあるパソコンを起動させた。

 父親から譲り受けた中古である為、動作が時折重くなることを除けば、使い勝手はまあまあ良い程だと、悟は考えていた。



 初期設定から変えていないトップ画面。そこに映し出されている詳細不明である絶景の写真には目もくれずに、悟は検索エンジンにて、ネットニュースの一覧を見る。



 ざっと目に入るニュースは政治家の汚職問題や、外国で災害が発生したという内容のものばかり。一見悟には無関係のように思われた。

 


 そのニュース郡の中には、魔法少女に関連したものも存在した。『連盟』所属の魔法少女がどこそこに出現した魔獣を如何に華麗に討伐したとか。

 地方で暴れまわる未登録の魔法少女――『魔女』の拘束に成功したとか。

 物騒な話題も混じっていた。



 そしてスクロールを進めること五分。とあるニュースに目が入った。



「え……嘘だろ……」



 ――『魔女』黒アリス。『連盟』が確保に動く。

 それが記事のタイトル名であった。そして一緒に魔法少女に変身した彼の姿の画像が映っていた。



「僕が『魔女』……?」



 突然頭を殴られたようなショックを受けた悟は、震える手でその記事の内容を読んでいく。



『本日新たに確認された『魔女』黒アリス。『連盟』所属の魔法少女フレイムと交戦後、逃走。そして同時刻、『連盟』の支部を『魔女』エリザが襲撃してきたこととの関連を調査中で――』



「この黒アリスって、僕のことかな……?」

「恐らくなんだな……」

「フレイムと戦闘したのが間違いだったかな……でもあの時はそうするしかなかったし……」



 未だに情報の大きさに処理が追いつかない悟。

 しかし何度パソコンの画面を見直しても、書かれている活字の文字列の内容に変化はない。

 目の乾きが襲ってくるだけで、無駄な努力にしかならない。



 どうしようもない現実に動揺を隠せない悟に、黒兎は声とかける。今後のことについてだ。



「『連盟』に『魔女』認定されたことで、魔獣退治にも支障が出てくると思うんだな」



 悟と黒兎の目標は、魔獣の発生である元『聖女』の排除。魔獣を倒した際に発生する『エネルギー』の回収を行う妖精と、彼らと契約している『連盟』所属の魔法少女との連携は不可能。

 むしろ今回のように、強制的に拘束する為に戦闘に発展してしまうだろう。



「だけど、僕は今更魔獣退治から降りるつもりはないよ。せっかく黒兎が魔獣を――これ以上の悲劇をなくす方法を教えてくれたんだ。最後までやり切るよ」

「悟……」



 悟の覚悟を汲み、黒兎は今回魔獣を討伐しに行った目的を再確認する。偶然フレイムとの戦闘に突入してしまったが、本来は悟の魔法がどのようなものかを調べる為であった。



「僕の魔法って、やっぱり『召喚』系ぽいのかなあ。使う時に影の中にいる『何か』を通して、あの『腕』やトランプ兵を呼び出している感じがするし」

「なるほどなんだな……。悟が言うその『何か』。それに悟を認めさせるのが、魔法の強化方法だと思うんだな」

「僕自身が認められる必要がある……具体的には?」

「魔獣を倒す……吾輩達の障害になるだろう『連盟』の魔法少女を相手に善戦以上をする……。ようするに勝って勝って、勝ちまくるしか道はないんだな!」



 身も蓋もない黒兎の言いように呆れそうになるが、悟にはかえって単純で考えやすかった。



 そんな時。悟の腹が鳴る音が響く。窓の外も赤色から、夜の闇にすっかり染まっている。

 パソコンに表示されている時計を見れば、午後六時を過ぎていた。

 道理で空腹を覚える訳だ。そう内心で呟きながら、悟は黒兎に断りを入れて、食事の準備に向かった。

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