第14話 かわいい服

 エネルさんとナナエラさん姉妹を、ハンノルンの街まで送ることになったわけだけれど、道中は特にこれといったことはなかった。まぁ、魔物が出たりはしたけれど、弱いものばかりで、あっさり倒すことができた。

 というわけで街に到着したのだった。


「リサさん、ここまでありがとうございました」

「本当にありがとうございます。リサさん」

「いえ、お気になさらずに」

「えっと、この後ですけれど、叔母の店に来ていただけませんか、お礼もしたいですし、服をお探しなんですよね」

「はい、これでは傭兵に見えませんから」

「それでは、店まで案内しますね」


 そう言って歩き出す、エネルさんたちの後について歩いていくことしばし、一軒のお店の前までやってきた。


「ここです。どうぞ」

「はい、失礼します」


 一言断りを入れてから、促されるままお店の中に入っていった。


「いらっしゃい、あらあら、エネルとナナエラじゃない。どうしたの? 遅かったじゃないの」


 お店に入ると、少しナナエラさんに似た女性が出てきて、エネルさんたちに気が付くと驚きながらそう言った。


「ごめんなさい、実は来る途中で、盗賊につかまってしまって……」


 エネルさんは少し声を潜めながら女性に向かって言った。


「な、なんですって、そ、それで、だ、大丈夫なの? け、けがとか、ううん……ま、まさか」


 女性はあまりの事実に衝撃から叫んでから、少しパニックになった。この女性はエネルさんとナナエラさんの叔母さんで2人のお父さんの妹さんだそう、だからナナエラさんに似ているのかな。それはともかく、叔母さんとしてはさすがに2人の身に起きたことは看過できないよね。


「う、うん、でも、ここにいるリサさんに助けてもらって、だからもう、大丈夫だよ」


 エネルさんはそういって笑顔を向けるけれど、それが無理しているのは明らか。すると、それを見た叔母さんがギュッと2人を抱きしめた。


「お、叔母さん!」


 突然のことで驚いてはいるけれど、何かの糸が切れたのか、2人は泣き出してしまった。


「なんだ一体、どうした、って、エネルとナナエラ?」


 2人の泣き声が聞こえたのか、奥から1人の男性が出てきた。奥から出てきたし、たぶんエネルさんたちの叔父さんかな。


「一体、どうしたんだお前らこんなことろで、というか2人ともずいぶんと遅かったじゃないか、もう少しで探しに行くところだったぞ」


 事情を知らないから、首をかしげながらもエネルさんとナナエラさんにそう言いながら近づいていく叔父さん。


「ヒッ」


 その時、エネルさんとナナエラさんが短い悲鳴を上げて身を固くする。あんな目にあったから、男の人が怖いのだと思う。


「あんた、ちょっと向こう行ってて頂戴」

「あんっ、なんでだ?」

「いいから」

「わ、わかったよ」


 叔母さんの迫力にたじろぎなら、引き下がっていく叔父さん。男の人って普段威張ってても、こういう時奥さんに弱いんだよね。家のお父さんもそうだった。でも、2人の様子を見る限り、今男の人が近くにいるのはだめだよね。それがたとえ叔父さんだとしてもね。


「ご、ごめんなさい」

「いいのよ。気にしないの」

「うん」


 それからまたしばし泣く2人と、それを受け止める叔母さん、それはいいんだけど私はどうすればいいのかな。


 黙ってみているのも何なのでお店の中を見て回っていると、声をかけられた。


「リサさん、ごめんなさい」

「いえ、気にしないでください」

「本当にごめんなさい。それと初めまして、私はこの子たちの叔母でマリナと申します。この子たちを助けていただいてありがとうございました」

「いえ、ついでみたいなものでしたから」


 エネルさんたちには悪い気がするが、私にとってはほんとについでみたいなものだった。盗賊を討伐したらそこに居たという状況だ。


「それでも、本当にありがとうございました。このご恩は忘れません」


 そう言って深々と頭を下げるマリナさんと、エネルさん、ナナエラさんに少しだけ困ってしまった。しかし、これを受け取らないわけにはいかないので、素直にお礼を受け取ることにした。


「どういたしまして」

「ところで、リサさんは服をお探しとのことですが」


 お礼の話が終わったところでようやく服の話が出た。


「はい、これでは傭兵に見えませんし、動きずらいですから」

「確かにその服はわたくし共のようなものが着るものですからそうでしょう。しかし、リサさんはその恰好で戦われたのですよね。大丈夫だったのですか?」


 マリナさんが心配そうに聞いてきた。


「そうですね。あのぐらいの盗賊なら何とか、魔法もありますし」

「そう、ですか。リサさんは若いのに強いのですね」

「幼いころからそういう風に育てられましたから」

「幼いころから、ということはご両親のどちらかも傭兵を?」

「はい、両親も親戚もみんな傭兵なんです」

「まぁ、すごいのですね……えっと、では服を見てみましょうか」


 マリナさんが妙な間を空けたけど、その間はたぶんどうして私がこんな格好をしているのかという質問をしようとして辞めたのだと思う、その気遣いは正直ありがたい。


「お願いします」

「それで、どのような服をお求めですか? やはり、動きやすさを重視されます?」

「そうですね。確かにそれが重要ですけど、やはりかわいいものがいいですけど」


 傭兵にとっては動きやすさが何より重要ではあるが、女の子にとってはかわいいことも重要だ。といっても以前にもいったと思うけれど、この世界はまだあまり可愛いものが少ない。


「かわいい服ですか、うーん、正直言いますと、あまり多くはありませんからね。あっ、でしたらお仕立てしますよ。いかがです?」


 かわいい服がないというが、それなら作るといってくれた。確かにないのなら作ればいいけど。


「いいんですか?」

「もちろんです。お礼もかねて誠心誠意努めさせていただきますわ」


 その後、マリナさんに希望のデザインなどを伝えることになったのだった。

 かわいいのできるといいなぁ。

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