第11話 これは、考えたくなかった……
盗賊のアジトに乗り込んだ私は、すでに抜き放っている剣を手に持ち道なりにゆっくりと歩いていく。
耳を澄ませてみると、奥の方から声が聞こえてきた。
「何か騒いでる。宴会でもしているのかな」
盗賊にしても傭兵にしても、一仕事終えると宴会をする。もしかしたら今何か一仕事、といっても盗賊行為なんだけど、それを終えて宴会でもしているのかもしれない。もしそうだとすると、あたりかもしれない。というのも宴会では大量のお酒を飲むために、みんな酔っている可能性が高い。そうなるとまともに戦えることはできず、あっさりと倒すことができる。しかしここで注意、もし宴会が始まったばかりであった場合、まだ盗賊たちは素面だから、下手をすると一斉に襲い掛かってくる可能性がある。相手は10人、いくら私でもその数を相手取ることは無理。
ここは慎重に様子見だね。
ということでゆっくりゆっくりと進んでいく。居た!
「がははははっ」
「おいっ! てめぇら歌えやぁ!」
宴会は盛り上がっているみたいで、見たところみんながみんな酔っている。これなら問題なさそう。
そう思った私は一気に彼らの前に姿を現す。
「なんだ?」
「おいおい、誰だよ。こんなところに娼婦なんて呼びやがったのはよぉ」
「見ろよ。すげぇいい女じゃねぇか」
私の姿を見た盗賊たちはいっせいにそんなことを言い出したけど、娼婦って私まだ経験したことないし、そんな間違われ方は不本意なんだけど。いや、私だって娼婦が悪いお仕事だとは思わないよ。彼女たちのことは尊敬だってしてる。けど、私がと言われると正直絶対に嫌。
「あなたたちがこれまでどんな悪事を働いていたかはわからないけれど、それもここまでです! 覚悟してください」
本来こんな口上はいらない気がするけど、なんというか様式美みたいなもので、つい言ってしまった。
「がはははっ、おいおいおい、この女妙なこと言ってるぜ」
「ていうか、よくみらぁまだがきじゃねぇか」
「いやでもよ。すげぇいい女だぜ」
「昨日のもよかったけど、ちょっと飽きてきたところだし、ちょうどいいじゃね」
なんだかちょっと聞き捨てならないことを言っているけど、今はこの盗賊たちを倒さないと。
「アースニードル」
まずは魔法でけん制をする。といっても洞窟内でこの魔法は結構な威力を発揮することになる。なにせ、この魔法は地面から土の杭を生み出すものなんだけれど、洞窟内というのは、横にも上にも土があるから、四方八方から杭が襲ってくるというかなり凶悪なものになる。その結果5人の盗賊が倒れる。あっ、1人避けた結構強そうだからおそらくあの人が首領かな。
そう認めた瞬間私は剣を構えて一気に駆ける。
「グハッ」
「ギャァ!」
1人、また1人と次々に斬り伏せていく、相手が酔っているおかげで本当に簡単に倒せる。そうしてあっという間に残りは1人だけとなった。
「貴方だけです。覚悟してください」
「はっ、まさかこんな小娘に壊滅させられるとはな。だが俺もここで終わるわけにはいかねぇ」
そうして始まった首領と私の戦い、思った通りこの人強い。私の戦闘スタイルは女性特有の身の軽さと、しなやかさで出すスピードによるもの。それを駆使して戦っているというのに幾度となく捌かれてしまう。胸当てをつけたことで胸に気を取られることなく動けるけど、それでもやっぱりこの村娘の恰好はロングスカートになっているので、ちょっと邪魔になる。その結果として全力の7割程度しか出せていないとはいえ、それでも盗賊ぐらいなら大丈夫だと思っていた。でも今私と互角の戦いをしているんだよね。しかもこの人酔っているからある程度鈍っているはずなのに。もしお互い全力だったらちょっとわからないかもしれない。
「はっ、やるじゃねぇか。まさかこの俺がここまでてこずるなんてな。しかも手ぇ抜いていやがるな。くそがっ!」
「そ、そんなことないよ。これでも全力、ただ動きずらいだけだよ」
力強い攻撃を裁くのはちょっと大変、このまま続けるとちょっとやばいかも、仕方ないあれを使う必要がありそうだね。
「エアフィールド!」
「あんっ?」
エアフィールド、この魔法は指定した空間の空気組成を変えるものだけど、一見すると何も起こらない魔法に見えから、首領も一瞬呆気に取られている。でも、魔法はすでに首領の顔付近で発動している。そして今回私がいじったのは酸素と二酸化炭素の組成を変えること。つまり現在首領の顔付近は酸素が減り二酸化炭素が増えているはず。ちなみにだけど、この魔法アクアホットと同じく私が作ったものだけど、アクアホット違いこれは私にしか使えなかった。というのも村のみんなは空気の組成といわれても理解できなかったからだ。また、酸素とか二酸化炭素とか言われてもそれも全く理解できなかったんだよね。私の場合酸素といえばO2とかだってイメージできるからね。
「な、なんだ、こ……」
案の定首領は呼吸が苦しくなってきているみたい。同時に動きも鈍ってきている。
「ここっ! やぁ」
ここがチャンスと一気に接近すると剣を地面すれすれから斬り上げる。
「グハァ!」
結果、私は盗賊の首領を倒すことに成功した。
「ふぅ、思ったより大変だったな。まさか盗賊の首領があんなに強いなんて思はなかったよ。なんで盗賊なんてやっていたんだろ」
あの首領の強さから考えると、傭兵でも十分通用する強さだった。そんな人がなんで盗賊なんてやっているのかほんとよくわからない。
「さてと、嫌な予感はするけど、奥に行かないわけにはいかないよね」
この奥に何があるのか、それは考えたくないけれど、私1人しかいないから奥に行かないという選択肢はない。仕方なく洞窟の奥へと足を踏み入れた。
「……っ!!」
足を踏み入れた瞬間、鼻を突いてくる嫌な臭い、それを我慢しつつもさらに進むと、そこには2人の女性。それを見た瞬間私は天を仰いだ。
「これは、考えたくなかったよぉ」
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