第8話 お肉を売って革を買う。

 お肉屋さんでシカ肉を売ったら、370ダリルとなりました。えっと、これを日本円にすると、パン1つが1ダリルだから大体100円とすると、約37,000円かな。これだけあれば、結構良い革が買えそうです。思ったより高値で買ってもらえて私もほくほくです。


「そういえば、お嬢ちゃんこの鹿自分で獲ったというのなら、皮も持っているのかい」

「えっ、あ、はい持ってますよ。この後革屋さんに持っていこうと思っていましたから」

「それはよかった。実はうちの旦那の弟が革屋をやっていてね。今呼んでこようか」

「いいんですか?」

「いいよいいよ。待っといで」


 そういっておばさんはお店の奥へと引っ込んでいったけれど、すぐに1人のおじさんを連れて戻ってきた。


「シカ皮を売ってくれるんだって」

「は、はい、えっと、これです」

「見せてもらうよ」


 おじさんはそういいながら何か仕方ないなぁという感じだ。これはたぶん私が女で見習いだから、下手な解体の皮を持ってきたと思っているのだと思う。


「ほぉ、これはまた。ほんとにお嬢ちゃんが解体したのか、ほんとは誰かが解体したものを持ってきたんじゃないだろうな」

「何言ってんだいあんたは」


 おじさんはかなり疑っているけれど、間違いなくこれは私が自分で解体したのだけれど。


「自分でしましたよ。何か変ですか?」

「い、いや、完璧だ。でも、こんな見習いがこんな。って、ちょっと待てこいつはヘッドショットじゃねぇか」

「えっ、そうなのかい」

「ああ、ここ見てみろよ」


 そう言っておじさんは皮の頭部を伯母さんへ見せた。


「あら、ほんとだね。お嬢ちゃん運がよかったねぇ」

「えへへ、ありがとうございます」


 実は狙いましたとは言えない。そんなこと言ったらきっと目立ってしまう、それは今の私の望むところではないからね。


「運って、そういうレベルじゃない気がするが、まぁいい、とにかくこれは高値で買い取らせてもらうぜ。そうだな、130ダリルあたりでどうだ」

「はい、大丈夫です」

「なら決まりだな」

「はい、あっ、革屋さん、私革が欲しいんですけど」

「おう、いいぞ。どのくらいいるんだ」

「えっと、1ナーメル四方なんですけど」

「1ナーメルか、いいがどの革にする」

「えっと、やわらかいものがいいです」

「やわらかいものか、何をするんだ……いやそうか、お嬢ちゃん剣を持っているってことは戦闘職だろ、そうなるとあれか、ちょっと待ってな今いい奴見繕ってきてやる」

「あっ、はい」


 さすがは革屋さんだけあって、私がどんな目的で革を買いたいのかが分かったようです。なんというか、まるで男の人に下着を買うところを見られたようで、とても恥ずかしい。だって、胸当てといっても直接肌に当てるものだし、服の下に着るという意味でも下着だからね。ちなみに私が言った1ナーメルというのは大体70㎝ぐらいで、昔ナーメルさんという人が手を軽く広げた幅から取ったそうだ。適当な気がするけれど、地球でも、インチが親指の幅だとか、日本でも昔使っていた尺、これは親指と人差し指を広げたときの両指先間の長さとしていたと聞いた事がある。そう考えると特におかしな話ではありません。ただ、ナーメルさんからしたらまさか自分が適当に広げた長さが後々の世でも使われ、しかも自分の名前が使われるとは思わなかったと思う。なにせナーメルさんは過去の偉人というわけではなく普通の人だったそうだしね。

 ともかく私が恥ずかしさのあまりそんなことを考えていると、おじさんが手に革をもって戻ってきた。


「こいつはバロウシープって魔物の革だがやわらかいうえに丈夫だから使えると思うぜ」

「バロウシープなら聞いたことあります。確かにそれなら大丈夫そうです。えっと、じゃあそれを下さい」

「おう、210ダリルになるがいいか」


 私は今490ダリルあるので、ここから宿代がおおよそ50ダリル、ご飯を入れても60ぐらい、またこの後布とかも買いたいからそれを残しても問題なく買えそう。


「はい、大丈夫です」


 それから加工するための道具などを一緒に買いお店を後にしたのだった。


「結局全部で230ダリルになったけど、いい買い物だったな。あとは裁縫屋さんに行って装飾用の布を買おうかな。せっかくならかわいくしたいし」


 胸当ては服の下に着るものなので当然人に見せるものではないから、普通は装飾なんて誰もしない。でも、日本でかわいいものに触れてきた私が、かわいくないものを身に着けるなんて嫌。だから、できるだけかわいくしたいし、何より革だけだと肌触りもあまりよくないから、布を当てて肌触りにもこだわりたいんだよね。

 というわけで、裁縫屋さんへ行き悩んだ末に何とかかわいくなりそうなものを選んで買った。


「こんにちは、今日泊まりたいんですけど、部屋は空いてますか?」


 この世界の宿に予約なんて言葉はない、すべてこうして直接確認して探すのが基本だ。


「ああ、空いてるよ一泊51ダリルだよ」

「それじゃ、これで」


 言われた通りのお金を渡すと対応してくれたおばさんが部屋の鍵を渡してくれた。


「部屋は3階だよ。部屋に番号が書いてあるから間違わないようにね」

「はい、ありがとうございます」


 この世界の宿では当然部屋まで案内はしてくれないから、自分で部屋を探す必要がある。まぁ、そんなに広いわけではないので、すぐに見つかるんだけどね。

 さぁ、夕飯まで少し時間があるし、かわいい胸当てを作りますよぉー。

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