第7話 やった、高く買ってくれました。

 仕留めたシカの血抜きが終わった。

 今度はしっかりと汚れを落とさないといけない。そうしないとお肉なんかに汚れがついちゃうから。


「アクアシャワー」


 アクアシャワーというのは文字通り水をシャワーのように出す魔法で、こういう時にすごく役立つ、ただ水を出すよりも綺麗に汚れを落とせるから。


「こんなものかな、次は内臓を取り出すんだけど、こればかりはやっぱりなれない。触っても気持ち悪いし、でもやらないといけないからなぁ」


 解体でも私が一番嫌いな工程が、この内臓を取り出すこと、最初のころは結構吐いた覚えがある。今ではさすがに吐くことはないけれど、やっぱり気持ち悪い。

 そう思いながらも何とかナイフでお腹を斬り、その中に手を入れて内臓を取り出していく、うわぁ、気持ち悪いよぉ。


 それから何とか内臓を全部取り出して、それを血抜きしている間に掘っておいた穴に埋めていく。こうしないと臭くなるし、魔物とかもやってきちゃうからね。


「ふぅ、これであとは冷やして、臭みをとってっと、フリーズ」


 フリーズの魔法で一旦シカを凍らせて臭みをとる。そして少ししてからフリーズの魔法を解くことで氷を消す。フリーズの氷は魔力によるものなので、解けないし、消すから水滴も出ない。こういう時は便利だ。

 こうして下準備を整えたことでようやく、各部位を切り分けることできる。


「よしっ、あとはこれを大葉で包んでおいてっと、終わったー」


 これにてようやく解体作業は終わったのであった。あとはこれをリュックサックに詰め込んでいって、うわっ、パンパンになった。それに、やっぱりちょっと重い。


「よいしょっと、これだけあれば胸当てぐらいは買えるね」


 これ以上持てないし、早く街まで行ってこれを売って、胸当てを買おう、どんなものにしようかな。できればかわいくしたいしね。


「あっ、そうだ! これを売ればたぶん布とかも買えるよね。直接肌に触れるわけだし、肌触りにもこだわりたいよね」


 新しい服というのはワクワクする。たとえそれが胸当てというあまり女性っけがないものでもだ。


 そう思いながら、ちょっと重いリュックに、少し足取りをとられつつ歩いていると、前方に街らしきものが見えてきた。


「見えた。あそこがメグーテの街だね。高く売れるといいなぁ」


 街へ入るには高い防壁にある大きな門から入るけれど、その門を通るには当然通行税というものを払わなければいけない。ここで、気づいたと思うけれど、私一文無しなんだよね。だから当然通行税なんて払えない。それじゃ、どうするのか、それは見てれば分かるよ。


「次、見習いか、なら通行税は15ダリルだ」


 ちょっとぶっきらぼうな門番がそういって私を見ます。


「あ、あの私、お金持っていなくて、だからこのお肉を買ってもらえませんか?」


 少し困った風を装って、背中に背負ったリュックサックを開けて見せます。


「肉か、何の肉だ?」


 門番を始め兵士というのはよく食べる。特にお肉が大好物、この場合買ってくれることがある。


「シカです」

「シカ、それは珍しいな。どうやって手に入れたんだ?」

「自分で獲りました」

「お前が、嘘をつくな見習いが獲れるわけないだろう」


 私の言葉に門番は疑いの目を向けてきます。まぁ、確かに私は今どう見てもただの村娘、そんな子がシカという本職のハンターでも難しい獲物を、捕れるわけがないからね。


「えっと、偶然見つけて、無我夢中で弓を引いたら、たまたま当たって」


 こんな言い訳を使ってみた。いわゆるビギナーズラックってやつだね。


「なるほどな。確かに、それにしてもずいぶんと間抜けなシカもいたものだな。まぁ、ものは確かにシカ肉だし、新鮮なのも確かだ、いいぞ1つ買わせてもらうぞ。20ダリルでいいな」


 私が知るシカ肉の相場は大体20ダリル、つまり相場通りのお値段です。


「はい、それでいいです」

「おう、それじゃこれ」


 そう言って渡してくれたのは5ダリル、これで通行税を支払ったことになります。


「ありがとうございました」

「よし、次……」


 ここはお礼を言って街へと入ることにしました。


「ふぅ、なんかは入れたけれど、本当ならもう少し高く売れるんだよね。このお肉」


 さっきは納得して売りましたが、実は相場というのは平均値で、私が獲ったものは新鮮で綺麗、臭みもない。いうなれば最高の状態なので、本来なら25ダリルぐらいは貰ってもおかしくないはず。でもま、特にここでトラブルを起こしたくないし、相手はお肉屋さんじゃないからいいんだけどね。

 さて、それはともかく今はお肉屋さんに行ってこのお肉全部売らなきゃ。


「いらっしゃい、おや、お使いかい」


 見つけたお肉屋さんに入ると、これまた恰幅、少しぽっちゃりとしたおばさんが笑顔で出迎えてくれた。


「いえ、お肉を売りたくて、いいですか?」

「おや持ってきたのか、どんな肉?」

「シカ肉です。一応このリュックの中全部なんですけど、出してもいいですか?」

「そんなにかい。それもシカ肉を、ええと、それじゃこっちに出してくれる」

「はい」


 おばさんは驚きつつもすぐに気を持ち直して、お店の奥にある作業台みたいなところに連れて行ってくれたので、リュックをおろしてその中にあるお肉を次々に取り出していく。


「おやおや、これまたずいぶんと状態がいいね。大葉で包んであるのがまたいいよ。これは誰が獲ったんだい」

「私です」

「お嬢ちゃんが! でも、シカなんてそうそう獲れるものじゃないだろ」

「はい、たまたま見つけて、弓を射ったら当たりました」


 ここでも門番と同じことを言った。やっぱり私みたいな子が狙ったといっても信じてもらえませんからね。


「それはまた、運がよかったねぇ。それにあら、解体も自分でやったのかい、うまくできてるよ」

「はい、解体は昔から親とかに教わって、やってましたから」

「そうかい、いい親御さんだねぇ。うん、これなら状態もいいし、高値で買わせてもらうよ」

「あ、ありがとうございます」

「なに、礼を言うのはこっちだよ。シカ肉ってのはうまいんだけど、あまり出回らないからね。えっと……」


 それからおばさんがお肉の計算をしてくれましたが、部位ごとに考えても相場の高値を付けてくれました。おかげで、私の所持金は合計、370ダリルとなりました。これだけあれば革を買うには十分です。どんな革がいいかな。やっぱり丈夫でやわらかいものがいいよね。

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