第4話 お世話になります
何とかノーリスを脱出することができた。よかったと喜びつつも、早く服を脱ぎたいという思いが込み上げてきた。
あっ、言っておくけれど私そんな趣味はないよ。この気持ち悪い服を着替えたいって意味だからね。ここ重要だから忘れないで!
「どうしたんだ?」
「いえ、何でもないです。それよりこれからどうするんですか?」
私の様子を見たおじさんがそう聞いてきますが、そんなことよりこれからどうするのかが気になり聞きました。
「ああ、この先にメグイットって村がある。幸いそこに俺の昔からのダチがいる。奴ならかくまってくれるだろう、嬢ちゃんも来るか?」
「え、えっと、そうですね。お世話になります」
「おう、ああ、そうだ嬢ちゃん、お前さん反乱軍に参加しないか、嬢ちゃんも見ただろ、あれが今の帝国だ。嬢ちゃんが加わればきっと勝てる。どうだ?」
おじさんが急に誘ってきたけれど、私はまだ悩んでいる。確かに帝国には恨みしかない、家族を殺され、ただの旅人である私を意味もなく処刑しようとしたり、ほんとひどい国だと思う。でも、反乱軍に参加したいとは思えない。
「わからないです」
とりあえず答えを保留することにした。
「そうか、まぁ無理にとは言わないよ。それじゃ行くか、こっちだ」
それからおじさんは特に気にした風もなく街道に出て歩き出したので、私もそのあとに続いた。
それから3時間ぐらい歩いたことで街道の脇に狭い道が見えてきた。狭いといっても馬車が1台通れそうではあるけれど。
その道を小一時間ほど歩いていくと、目に村らしきものが見えてきた。
「とまれ! 何者だ? ってグリーブ? グリーブじゃないか。お前、生きていやがったのか?」
村の門番をしている人が、おじさんを見てそう叫んだ。おじさんの名前ってグリーブって言うんだ。私たちはお互いにまだ名前を名乗っていない。それというのも私たちはまだ仲間ではないからだ。
「まぁな。それよりかくまってくれ」
「何があった? それにそっちのぼ、いや嬢ちゃんか、どこで拾ってきやがった?」
門番さんは最初私を見て男と思ったみたいだけど、すぐに私が女だって気が付いた。そりゃぁ男性用の服と鎧を着ているけれど、胸の部分が膨らんでいるからね。どう見ても女の子でしょ。
「あとで話す」
「わかった、こっち来い」
ということで私とおじさんは、門番さんに連れられてある家へ向かった。
「まぁ、入ってくれ。おーい、ミナ!」
「なんだいいきなり、仕事はどうしたんだい?」
「それどこじゃねぇよ。グリーブが来やがったんだ」
「なんだって!」
その瞬間奥の部屋から1人のおばさんが出てきた。ちょっと恰幅のよい、ぽっちゃりとした女性だ。
「ああ、グリーブ、グリーブ、あんた生きてたのかい。あんたが捕まったと聞いてもう殺されたんだと思っていたよ」
「心配かけたなミナ」
「いいんだよ。よく顔を見せておくれ」
「こんな面で良ければいくらでも見ておけよ」
おじさんとおばさんがそういって見つめあう、あれっこの人って門番さんの奥さんじゃないの、もしかしておじさんの奥さん? でもおじさんは昔からの友達って言っていたよね。どういうこと?
私にはさっぱり意味が分からないが、考えてみると私には全く関係ないと思い、考えるのをやめた。
「それで、この子はどうしたんだい。それに何があったの?」
少し待っていると、おばさんが私の存在に気が付きおじさんに尋ねている。
「ああ、それを今から話すよ」
そう言っておじさんはノーリスであったこと、私のことを話した。
「……そう、あんたも大変だったね。まさかただの旅人を捕らえるなんてねぇ」
「ああ、全くだぜ。でも、剣が使えて相当な強さっていったい嬢ちゃんはなにもんなんだ」
「えっと、その」
「ああ、悪いね。ほらあんた、あまり女を詮索するもんじゃないよ」
言いよどんでいると、おばさんがそういってかばってくれた。
ちなみに、話している最中に聞いたけれど、やっぱり門番さんとおばさんが夫婦で、おじさんとおばさんは従姉弟同士なんだそうだ。なるほど従弟なら当然心配もするよね。
「それよりあんた。この子をあの空き家に連れて行くから、お義父さんに伝えておいて頂戴」
「お、おうわかった」
「それじゃ、行くよ。ついてきな」
「え、あっ、はい」
よくわからないけれど、おばさんの後についていくことになった。
そうして、門番さんの家を出て、隣の家へ入っていくおばさんの後について、私もその家の中に入っていく。
「ここは旦那の伯母が住んでいた家でね。もう何年も空き家だから安心して使いな」
「えっ、でも……」
「遠慮はいらないよ。あんたには従弟が世話になったうえに迷惑をかけたんだからね。改めて謝罪させておくれ」
そう言っておばさんは深々と頭を下げたので、私としては慌てた。
「い、いえ、私もお世話になったし、その」
「ふふっ、いい子だね。あんた。きっと親の教育がいいんだね。うちのとは大違いだよ」
おばさんはそういって笑っている。うちのってことはおばさんの子供ことかな。
「さて、ちょっと待ってな。今お湯を用意してあげるから、体洗いたいだろ?」
さすが同性だけあって、私の今一番したいことが分かってくれる。
「はい、すぐにでもそうしたいです」
「ははっ、そうだろうね。兵士ってのは汚い連中が多いからね」
おばさんはそういって笑いながら、部屋の奥からたらいを持ってきた。
「あっ、お湯は自分で出せますので大丈夫です」
「出せる? どうやってだい」
「えっと、魔法で……『アクアホット』」
かまどに火を入れようとしたおばさんを止めて、私はお湯を出す魔法を使う。実はこのアクアホットという魔法は昔私が自分で作ったもので、私の村の人ならだれでも使えるようになった魔法だ。まぁ、結局私しか使えなくなっちゃったんだけど。
「おやおや、すごいねあんた。魔法が使えるってだけでもすごいのに、お湯を出せるなんてねぇ。そんな魔法があるのかい」
「はい、私の村ではみんな使えました」
「それはうらやましいね。それじゃ、ほら新しいタオルを置いておくからこれ使いな。あたしはちょっとうちから着替えを持ってくるからね」
そう言っておばさんが家を出て行ってしまった。着替えって、まぁ、いいかそれより今はすぐにでもこれ脱いで、体洗いたい。
というわけで、さっそく着ていた鎧と鎧下の服を脱ぎ捨てて裸になる。
「はぁ、やっと脱げたぁ。ああ、もう、体がかゆい~」
かきむしりたい気持ちを抑えつつ、お湯にタオルをつけて、近くに置いておいてくれた石鹸で泡立てて体を洗っていく。ああ、気持ちいいやっとリフレッシュされたよ。
コンコンコンッ
気持ちよさにほっとしていると、玄関扉がノックされて、びくっとなった。あっ、私今裸、どうしよう……
「アリシア、あたしだよ。1人だから入ってもいいかい」
すぐにおばさんの声が聞こえて、1人だと言う、私が今裸であることが分かっているからそういってくれたみたい。おばさんなら特に問題もないよね。
「あっ、はい」
そう返事をすると、おばさんが家の中に入ってきた。
「お待たせ、へぇ、あんた思っていたよりもスタイルがいいんだね。うらやましいよ」
「いえ、そんなこと、ないです」
「はははっ、謙遜するもんじゃないさね。ほれ、着替えを持ってきてあげたよ。あたしが娘時代に着ていたものだからちょっと古いけど、ちゃんと保管していたから問題ないはずだよ。まぁ、ちょっと胸が苦しいかもしれないけどね」
「いえ大丈夫です。ありがとうございます」
おばさんにお礼を言って着替えの服を受け取る。
「あと、下着はこれを使いなまだ使ってない新しいものだから大丈夫だよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
私は今下着がないから新しいものをもらえるのは、正直うれしいけど下着だってただじゃないのにいいのだろうか。
「いいよいいよ。まだあんた見習いの年だろ、遠慮なんてするもんじゃないよ」
おばさんが言う見習いというのは、成人を迎えた15歳から20歳までのことだ。
「それじゃ、あたしはいくよ。ああ、そうそう夕飯もうちに食べにおいで」
「えっ、はい」
おばさんは私の返事を待たずに行ってしまったので、ちょっと声を大きくして返事をした。
こうして私は何とか人心地ついたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます