第2話 は、恥ずかしい……けど

 処刑される寸前、街にワイバーンがやってくるという、稀な事態により処刑されずに済んだ。だからといって助かったというわけではない。ワイバーンは人を食べるというし、何よりここから逃げないとまた帝国に捕まってしまう。


「逃げるにしても、外は辞めた方がいいだろう、となると地下だな。幸いここは地下に通じる道がある。そこから出よう」

「は、はい」

「ところで、嬢ちゃんは剣は使えるんだろ」

「えっ?」


 おじさんに言われたけれど、どうしてわかったのだろう、そんなそぶりは見せていないつもりだったのに。

 腕の立つ人であれば、見ただけでも体の使い方などからわかるという。それを知っているから私は意識してそう見えないようにしていた。それを見抜くなんて、この人はよほど腕がいいのかもしれない。


「嬢ちゃんが隠しているのはわかっているが、この先はさすがに嬢ちゃんを守りながら進むのは無理だ。協力してくれないか」


 そう言って頭を下げてくるおじさん。少し悩むも仕方がない。私だってここから逃げたい。でも、確かにこの先私が戦わなかったら逃げるのは無理だと思う。というのもこの街はノーリスといい、帝国の要塞都市、いくらワイバーンで混乱しているとはいえ、街中も地下ですら帝国軍がうようよいるのは間違いない。もし遭遇したなら……

 そう考えた私は、意を決することにした。


「わかりました。でも私、装備を何も持っていません」


 一番の問題はこれだ。捕まった際に持っていた荷物も何もかも奪われてしまったから、いくら私でも装備が何もない状態で戦えない。


「それなら、剣はこいつを使うといい、防具はそいつからもらってくれ」


 そう言って差し出してきた剣は鉄製の剣、少し手入れは悪そうだけど使えないことはない。でも防具はというと、部屋の中にいる死体から奪えという。確かに死んだ人は防具はいらないだろうけど、いいのだろうか。

 そんなことを思いつつも仕方ない。確かに防具なしで剣だけでも戦うことはできる。しかし、やはり防具なしの場合、ちょっとでも攻撃を受けると致命傷になる可能性がある。これから戦う帝国兵が弱いのならまだしも、帝国兵は一般兵でも結構強い。いくら私でも数人に囲まれた場合、かなりまずいことになるだろう。


「は、はい、わかりました」

「よし、ちょっと待ってろよ」


 私が返事をすると、おじさんが死体のそばにしゃがみ込み、死体から鎧やその下の服などをはぎ取っていく。おじさんも女である私が死体といっても、男の人の服を脱がすことにならないように気を使ってくれたみたい。

 そうして、はぎ取られた鎧と服、私はこれからこれに着替えなければいけない。しかし、ここに大問題があります。それは、今現在の私の服装がところどころ穴の開いた囚人服であるということ。しかもこれ1枚だけで、この下は何も着ていないということです。そして、このはぎ取られた鎧は、その下に着る服に固定される仕組みとなっており、これを着なければならず、この服を今の服の上から着ることもできない構造になっているということです。つまり、何が言いたいかというと私はこれから着替えるために今着ているものを脱がなければならないということ。

 それだけならここまでためらう必要はありません。私がためらう理由はこの部屋にはおじさんがいることです。それならおじさんに別の部屋に行ってもらうか私自身がそうするかですが、それはできない。というのもこの部屋から出る扉は鍵がかかっており出られない、まさか街中に出るわけにもいかない、だからといっておじさんにそっぽを向いてもらうわけにもいかない。何せここはいうなれば適地、周囲に警戒をしていなければいけないから、そう、私はこのおじさんの目の前で服を脱ぎ、裸にならなければいけないということです。これはさすがに16歳の娘でしかない私にはかなりハードルが高い。

 そうしてためらっている間に、遠くから足音が聞こえてきた。


「まずいな」


 おじさんがそういったようにその足音はこちらに向かってきているように思える。ここはためらっている場合じゃない、恥ずかしいけど、早く着替えないと帝国兵が来ちゃう。

 ええい! 女は度胸!

 ちょっと違うかもしれないけれど、意を決した私は勢いよく、今身に着けているものを脱ぎ去り裸となった。

 少しおじさんの方をちらっと見てみたけれど、おじさんは私のことを視界に入れながらも警戒を解いていない。どうやらちゃんと時と場合をわきまえているみたいでよかった。ほっとしながらも何とか私は服を着ていく、本来なら下着を身に着けたいところだが、さすがに男の人から下着を奪うわけにはいかないので、下着はなしで身に着けていく。

 う~~気持ち悪い。


 汗とか血とかでぬるっとした服が肌に触れて気持ち悪い。というかこれ着ているとちょっとかゆいんだけど、どういうことかな?

 そんなことを気にしながらも何とか服を着替え鎧を身に着けていく。そうして剣を手に取って確認していると、先ほど聞こえた足音がやってきたみたいだ。


「隠れろ!」


 小声でそう言ってくるおじさん、私もそれに従い物陰に隠れる。


「誰かいるのか?」


 私たちの気配を感じたのか足音の主がそう尋ねながら、部屋の鍵を開ける。その声を聴いたとき私はドキッとした。聞き覚えのある声。


 ガチャリと入ってきたのは帝国兵が3人、それを見た瞬間おじさんが素早く動いた。


「なっ、貴様は?」


 帝国兵も反応したが動いたのはおじさんの方が早かったようで、おじさんが一人を斬り捨てる。私も続いて動き素早く帝国兵の元へ近づくとまず1人を斬り続けざまにもう1人を斬り捨てていく。


「ふぅ」

「や、やるな嬢ちゃん。使えるとは思ったが予想以上だぜ」


 こうして何とかやってきた帝国兵を倒し、この部屋を出ることもできそうだ。まずは上出来といったところだろうか。

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