ここまでされたら私にも考えがあります
夢限
第1話 許せない
ガラガラガラ
そんな音を立てて馬車が街道を進んでいる。
「よう、お前さん何をやったんだ?」
周囲の人が静かにしている中、目の前にいるおじさんが隣の人に声をかけている。
「うるせぇっ。黙ってろ!」
そう言って怒鳴るが、正直私には怒鳴る方の気持ちがわかる。
なぜって、それは私たちがこれから処刑されるからだ。それを考えるとのんきに話している場合ではない。
「だいたいてめぇらのせいじゃねぇか! てめぇら反乱軍の巻き添えなんだぜこっちはよっ!」
うるさいといった割りに不満が爆発したのか、怒鳴ったおじさんがさらにしゃべりだした。
それを聞いた私も静かに何度か頷いていた。
それというのも、実は私もこのおじさんと同じで、目の前の人たち反乱軍に巻き込まれた。反乱軍というのはこの国、帝国に対して反旗を翻している人たちのことで、私は全く関係ない。というか私はある理由から国を出るために旅をしていただけ、あの時だって偶然あの場所に居合わせただけだった。それで捕まってこうしてなぜか処刑までされるいわれは全くない。たぶんこの怒鳴っているおじさんも同じように巻き込まれたのだろう。
「そいつは悪かったな。だが、これが帝国だ」
目の前のおじさんはそういっているが、全く謝っていないし、まるで帝国がすべて悪いみたいな言い方だ。まぁ、実際に帝国は悪いんだけど、それでも巻き込んでおいて謝罪ぐらいしてほしい。
「クレイブ、その辺にしておけ、確かにその男と隣の嬢ちゃんを我らが巻き込んだのは事実だ。すまなかった」
私の隣にいる人がそういって謝罪をしてくれた。どうやらこの人はちゃんと誤っているようだ。尤も謝られたからといって、私たちの処刑がなくなるわけではないので意味はないんだけど。
そうしていると、馬車が街へ到着してしまった。つまり私たちはこの街で処刑されるということだろう。
「どうやらついたようだな」
「くそっ、俺はまだ死にたくねぇ!!」
怒鳴ったおじさんが死にたくないとあがいている。その気持ちよくわかる、私だって叫びたい。だって私、まだ16歳なんだよ。どうしてこんな目に合わなくちゃいけないの!
心の中で叫んでいると、帝国兵士が次々に名前を呼び、呼ばれた人たちから順に処刑台の前へ向かっていく。
「アリシア」
ついに私の名前が呼ばれてしまった。どうすることもできないので仕方なく私も処刑台の元へと向かっていく。やだなぁ、行きたくないなぁ。死にたくないよぉ。お母さん、お父さん、みんなぁ。
歩きながらもういない両親や村の人たちのことを想う。
実をいうと私はただの旅人ではないし、名前もアリシアではなくリーシアという傭兵の娘だ。というか私が生まれた村は小さいけれど、みんなが傭兵家業をしている村だった。両親も傭兵としていくつもの戦場を駆け巡り、多くの戦功をあげている。もちろん雇い主は帝国、帝国のために命を懸けて戦い続けた村の大人たち。しかし、先月、いやもっと前から帝国は私たちを裏切っていた。
気が付いたのは先月だけど、それ以前から妙に戦死者が多いとは思っていた。まぁ私たちは傭兵だし、戦死することは何もおかしくはない。それでもみんな腕がよくそう簡単に命を落とすような人たちではなかった。最初は1人か2人程度だったけれど、最後の方になるとまさかの全員。その中には私の父も含まれていた。ものすごく悲しかったけれど、傭兵である以上これは仕方ないそう思っていた。でも、ついに先月、村の精鋭がほとんど亡くなり、残っているのが私たち子供やお年寄り、わずかな大人たち。そこに帝国軍がなだれ込んできて、なんと残った村人を一人残らず殺した。私の母も、祖父母も隣に住む幼い、まだ3つだったミリーちゃんも、みんなだ。私はその時、森で1人訓練をしており、窮地を知って駆け付けた時は手遅れ、みんな殺され帝国軍が帰っていくところだった。本当なら私はその場で、みんなの復讐をしようかと思った。でも、帝国軍の人数は30人余り、その数相手に私1人ではどうすることもできない。それに復讐は何も生まないし、それをしたところでみんなは帰ってこない。だから私は悔し涙を流しながらもそこはじっと耐えた。
それから私はこんな国に居たくないと思って、隣国へ行くことにした。その際傭兵としてではなく一人旅の女として駅馬車を利用したり、商人にお願いしたりして街から街へ移動し、お金が無くなったら普通に仕事をして稼いだりして、ゆっくりと一月かけて国境までやってきた。
言っておくけれど、私はこれまでの人生、傭兵の娘として生きてきたときも、両親とともに戦場に行ったり、盗賊を討伐したり、魔物と戦ったりはしたが、決して帝国の法は犯していないし、旅をしてきた一か月の間も当然犯していない。というかこの一か月間剣はおろかナイフすら握っていない。
「次は娘お前だ」
馬車の中で怒鳴っていたおじさんが最初に処刑されて、その後3人が処刑、そしてついに私の番がやってきた。処刑方法は斬首、逃げられない私は言われるがままに処刑台へ上がり、首と両手首を木枠に固定される。ああ、ついに私、処刑されてしまう。やだ、死にたくない。助けて、だれか、お父さん、お母さん、助けてぇ!!!
いよいよ私の首が落とされる、まさにその瞬間だった。
グワギャァァァ!!!!
そんな聞いた事もないような声が響き、周囲にいた人たちが何事かとあたりを見渡しているけれど、首が固定されている私は全くわからない。しかし、その答えはすぐに聞こえてきた。
「ワ、ワイバーン!」
「逃げろー!」
ワイバーン! ワイバーンって、あの。なんで?
ワイバーンというのは、ドラゴンの亜種といわれている魔物で、かなり強く人間では到底かなわないといわれている。つまりワイバーンが街に現れたということは街が崩壊するということを意味している。えっ、ちょ、それってやばいよね。わたしどうなるの、ここから動けないし、というか私ってもしかしてワイバーンの餌になるってこと、それは嫌だ。ほんと誰か助けてー!!
「んーーーー!」
声を出して助けてほしいけれど、私の口には
「運がよかったな。嬢ちゃん、逃げるぞ。動けるか?」
立ち上がってみるとそこには馬車で私の隣に座っていたおじさんがそこにいた。どうやら、この人が私を助けてくれたみたいだ。
「ほら、行くぞ急げ」
助けてくれたのはいいけれど、できれば手についている枷を外すか、猿轡を外すかしてほしい、これじゃ手が使えないし、しゃべれない。
でも、おじさんはさっさと行ってしまい、仕方なく私もそのあとについていく。
「こっちだ。急げ!」
建物に入ったおじさんが私を呼ぶので、そこへ向かい走る。
「まさかこんな幸運があるなんてな。ほれ、今解いてやる」
おじさんの元まで行くと、おじさんが枷を外してくれた。ああ、自由だぁ。
これでやっと解放された。自由ってなんていいのだろう。
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