第2話
「ふーん、ここかしら」
少女は住宅街から少し離れた場所に立ち寄り、意味深に呟く。
ふんわりとした柔らかい髪型。
プラチナブロンドの地毛をたなびかせ、目の前の一軒家を見つめた。
「見たところ、怪しい雰囲気はないけど。一体なにがあったのかしら」
少女は一軒家を見回す。
しかし怪しいところは一切見当たらない。
けれどここに来たのは決して偶然ではない。
少女はスマホを取り出すと、メールの文面と送られてきた住所を再確認するも、やはり目の前の一軒家がそうらしい。
「やっぱりここよね。うーん、ちょっと分からないわ」
初見の反応では何も分からない。
いや、本当なら少しは勘付くはずだった。
しかし少女のこの反応。邪悪な何かではないようで、安心はしてしまう。とは言え、そんなことになればここに来た意味も限りなく
「まあいいわ。前金は貰っているから、さっさと終わらせましょう」
私は一軒家のチャイムを押す。
きっと依頼主かその仲介役が出てくる筈だ。
少女は何の気なしに長押しすると、スピーカーから音が漏れた。
ピンポーン!
今時珍しいタイプのチャイムだった。
少女はちょっと新鮮で興奮すると、ガチャリと鍵が開く音がする。解錠されたようで、扉を内側から開けて貰った。
「お待ちしておりました。レクイエム様でしょうか?」
現れたのは五十代中頃の中年男性。
黒のスーツを着用し、白い手袋をしている。
髪は少し細いけど、ピッタリ固められていた。
見たところこの一軒家の主人ではない。
おそらく、新築一軒家の紹介を担っている、不動産会社の社員だろう。営業のサラリーマンって大変だと思いつつ、仲介人は怪しい視線を少女に向けた。
「あの、失礼ですがレクイエム様でしょうか?」
「ええ、私がレクイエムよ」
「……冷やかしでは?」
「そんな訳ないわよ。冷やかしなら、そもそも来ていないわ」
「は、はぁ?」
完全に怪しまれている。
それもそうだ。今日来たのは何処にでもいる高校生くらいの少女。
整った人形のような顔立ちは日本人の様だけど、それとも少し違う。完全に別の血が入っていた。
とは言えそれは間違いではない。
少女は「こほん」と咳き込むと、改めて自己紹介をし身分を明かす。
「初めまして。
「……はぁ?」
「……それで、なにがあったのか、教えて貰えるわよね?」
せっかく自己紹介をしたのに完全に無視された。
環はこの空気に慣れている。だからここからの起点の切り返しも早い。
素早くスルーすると、話を元に戻した。今日ここに来たのは、怪奇相談事務所としての仕事だ。
「は、はい。実はこの間から変なことが多々起こっていて」
「多々起こってるのね?」
「はい。一体なにがなにやら、我が社でも大変困惑していて」
「そうよね。うーん、とりあえず中に入ってもいいわよね?」
外で考えるだけじゃ分からない。
環は考える仕草を取ると、仲介人の背後に視線を向ける。外観を見ているだけだと何も得られないので、とりあえず一軒家の中に入り、ある程度調査をしてみることにした。
「是非お入りください。できるだけ我が社としても早急に解決していただきたく」
「解決って言われても、正直役に立てるかは分からないわ。でも、やれるだけのことはやってみるつもりよ」
環は仲介人に通される形で、一軒家の中に入った。
新築の一軒家だからか、新しい木の香りがする。
とは言え今時の家なのは変わらない。四角い箱のような形をしていた。
多分造りとしてはかなりシンプル。特におかしなところは何もない。
ましてや土地のエネルギー自体も正常に働いていた。
とてもじゃないけど、曰く付きの場所ではない。
環は冷静に見極めると、霊障が起こるような邪悪なエネルギーが滞留していないことを確かめた。
「あ、あの……」
「ああ、心配はいらないわ。とりあえず予想通りだから」
環は予想通り過ぎて、逆に引いてしまう。
言葉を失うくらい何もなく、果たして来た意味があったのかと想像を働かせる。
ここまで電車で四十分。往復で八十分コースは確定だ。
となれば時間だけをただ浪費したことになる。
環はあまり浮かばれず、せっかくの休日を水にしてしまいそうで嫌になる。
「一応霊道が通ってるかくらいは見てみようかしら。きっと通ってないけど」
ただの骨折り損で終わるのは確定していた。
しかし前金を貰っている手前、下手に切り上げるのも悪い。
ある程度のことをして上げることにした環は一軒家の中を物色するように、内見と霊道のチェックをするのだった。
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