第34話

「神への信仰はあるが、俺たちの信頼はないってことだ」

「…まぁ、そうだよね…。別にいいけど」

「前向きにいこうぜ」

「…前向きね…強制的に前に向かされてる感はあるけどね」


せっかくここまで来たのに、また戻らないといけないなんて。とんだ無駄足だ。



「はい。あの家は、好きにされて構いません」

「壊しても?」

「はい。どうぞお好きに」

「じゃあ、好きにしますけど…。本当に大丈夫なんですか?あとで、請求来ませんか?」

「請求も何も…。あの家も土地もあなたのものになっておりますので、誰も文句は言いに行きませんよ。これが、所有権です」


そして、一枚の紙を渡される。

これで、一応、あの家と土地は、私たちの物になったらしい。

追い出されるように役所を出ていかされ、まだ納得できない私は、建物を見上げながら、手元の紙を大切にしまった。


「こんな紙一枚で、大丈夫なのかな」

「大丈夫なんだろ。ほら、早く終わっていいじゃないか。さっさと家に帰ろうぜ。さすがに疲れた」

「くぅん」


二人ともお腹が「ぐぅ」と鳴らしている。

私も、さすがに慣れない土地や人たちとの接触で疲れている。

適当に屋台の物を買って、それで済ませよう。


「はぁ~。すごぉ…」


さすがは、ギルドの国。

屋台も活気があって、あちらこちらから声が飛び交い、いい匂いが漂っている。


「魚も肉も、なんでもあるのね…」


この近くに川でもあるのだろうか。

どれも自分の国では見たことがないものばかりだ。


「おい。これ買ってくれ」

「わんわん」

「ちょっと待ってよ…」


魔物を狩るために、ここでは猟犬も多くいるらしい。

おかげで、ポン助用のご飯もすぐに買うことが出来た。


「おいしい?」

「わん!」


ポン助が、がつがつと、おいしそうに食べているのは、鹿肉だ。

栄養豊富で、犬にとってはごちそうらしい。

確かにいつもより、がっついているような気がする。


「俺にも~」

「はいはい」


アスランは、なんにでも興味があるようで、あれこれと頼んでいる。

…神様なのにいいのかしら。こんなに雑食で。

肉も魚もなんでも食べているけど、神様によるのかしら。


「俺は、好き嫌いはしない。…酒も飲めたら言うことなしなんだけどな」

「その姿じゃ無理でしょ」

「…しかたない。家で飲むか」


アスランもお酒飲むんだ…。

そういえば、家の神棚にあったお酒、夜中にこっそり飲んでいたことがあったわ。


「ちょっと!それ、神様用のお酒だから、飲んじゃだめ!ってか、子どもは飲んじゃだめだよ!」

「つまり、俺用だろ?じゃあ、いいじゃないか」

「なんで、アスラン用になるのよ。とにかく飲んじゃダメ!!!」

「俺の酒!!!」


あの後、アスランはしくしくと泣いて大変だったな…。

神様だから、お酒が好きなのか。

アスランが、特別お酒好きなのかな。


「神様は、たいてい酒好きが多いぞ」


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