第32話

「知り合いどころか友達みたいなもんだけどな、って言ったらどうだ?」


ぼそり。とアスランが、私にしか聞こえないように言った。

いたずらを企んでいるような子どもの顔で、アスランが言うが。

本気で言っているわけではないのは、顔を見ればわかる。だが、冗談でもそんなことは言わないでほしい。


「まず、信じてもらえないでしょ」

「試しに言ってみたら、どうだ」

「おかしな女って言われて、おしまいだよ。協会の人間は妄言ばかり言うみたいなこと言われても面倒だし、パス。…妄言を言うおかしな女扱いされるのは、あの国だけで十分」

「そうか」


私が、あの国でどういわれていたのか、詳しくは知らないだろう。

でも、アスランはそれ以上は言わなくなったので、よかった。

あの国で言われたことは、まだ完全には吹っ切れていない。

私のお守りのことや、代々受け継いできた店の悪口。それに道行く人の悪意や言葉が、そう簡単に抜けるわけではない。

それに、婚約者のあの顔…。


……思い出したら、腹が立ってきた。

とにかく、おかしなことを言って、この国にもいられなくなるのは、勘弁だ。

せっかくアスランが、どうやったのかわからないけど、この国に神託を出して、私たちのこと知らせてくれたんだから、それに乗っかる手はない。


それに、ここはまだ協会の目があるらしい。

そうしたら、私のお守りだって、大丈夫だろう。

協会の許可証があるし、この国にすでにお守りやがあるとしたら、残念だけど、またお店を出すことが出来る可能性が消えたわけではない。


「それで?家に案内してくれるってことでいいですか?」

「ああ。…おい。案内してやれ」

「はい」


ギルド長が、案内役にしたのは、私たちをここに連れてきた男だった。


「じゃあ、お嬢さん。いつでも世界樹を植えられる力が出来たら、声かけていいぜ。俺たちは、いつでも大歓迎だからよ」


あ。この顔。

本当は、信頼してないんだなって顔。

婚約者と全く同じ顔。

妄言はいている女を見るような。頭がくるっている人間を見ているような、一歩引いた目。


…なんだ。この人たちもやっぱり同じじゃない。

神託があろうと、協会があろうと、変わらない。

それはそうだ。

神様の奇跡なんて、この国を自分たちで作り出した実績を持つ、この人たちには、まったく信じられないことだもの。


「わかりました」


それでも、納得はできないけど。

せっかく受け入れてもらえるかも、なんて思ってたのに。


「まぁ。今に見てろ、とでも思っとけ。どうせ、あとで謝ることになるのは、あいつらのほうなんだからな」

「アスラン。絶対に約束守ってよ」

「もちろん。神様は、約束したら、絶対に守るからな」

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