第28話

「おい。何をしている。早くついてこい」

「す、すみません…」


―いや、あなたの足、速すぎなんだって!!!


という叫びをこらえる。

こちとら、ぼんやりと考え事をしながら、だらだらした散歩が日課の女だぞ。

運動不足ゆえか、それともあの人が、単純に足が早いのか、小走りにならないと、追いつけない。

おまけにこの人の量に、私は大苦戦していた。

この大通りに歩いている人の数は、私が、住んでいた国でも祭りの時並みだ。つまり、めっちゃ人が多い!

何か祭りでもあんのか?って疑ってしまうくらい、通りに人があふれている。

私は大勢の人が歩いているところを歩くのが、苦手…というか慣れていないため、ただでさえ、案内の男の人の足の速さについていけていないのに、人の壁にぶつかって、なかなか前に進めない。

人にぶつかっては、「すみません」「あ、ごめんなさい」「あああ…本当に、すみま、すみません」なんて、もたもた謝りながら、歩いていては、男の人を見失ってしまうのも仕方ないと思う。


「女のエスコートが下手な奴だなぁ。もう少し、こっちを気遣う様子ぐらい見せろってんだ。こっちは、女と子どもと犬だぞ」

「わん」

「うう…人、多すぎ…酔った」

「大丈夫か?少し休もう」

「ごめんね…」

「仕方ないさ。国を出て、ずっと気を張り詰めてんだから、疲れてるのは、当然さ」

「わん」

「ありがと」


アスランから、水の入ったコップを受け取り、一口飲む。

疲れた。

こんなんで、この国で暮らしていけるのだろうか。

…そもそも認めてもらえるだろうか。世界樹を生やせるなんて、豪語しているけど、本当にアスランってそんなことできるのかなぁ。


「なんだ。その目、俺を疑ってるのか」

「ちょびっと」

「まぁ、しかたないか。今の俺はプリチーなおこちゃまの姿だからな」


私の言葉に気を悪くすることもなく、なぜか、むん。と胸を張うのが、アスランらしい。変に度量があるというか…器が大きいというか。

アスランの姿は、本当にどこからどう見ても子どもにしか見えないのに。

そのまま、ぼんやりと人が行き交う姿を見つめた。

たくさんの人が、自分の欲しいものを買っている。

自分たちに必要なものを。

私のお守り、ここだったら、売れるのかな?


「おい!なにを休んでいる!ボスが直々に会ってくれると言っているのに、それを待たせるなんて、お前たちは何様だ」

「神様だよ」

「はあ!?」

「ふっふふふ」


まさか男もこんな子供が、本当の神様だなんて、信じないだろう。

私だって、少し半信半疑だというのに。


「まったくあれだけ、普通の人間にはできないことをしてきたというのに。神様の奇跡とやらを見せてるってのに…なあ、ポン助」

「わふ」


もふもふと、ポン助の頭をなで、私はよっこいしょと重い腰を持ち上げるのだった。

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