第29話

ふぅふぅ言いながら、男の後ろをついていき、ようやくたどり着いたギルド長がいる建物を見て、驚いた。

塔の壁は真っ白なのに、屋根の部分だけが赤い。そのため、赤い小さな三角帽子を被ったように見える塔が、真ん中の大きな塔に何個もくっつき、全体は、巨大な建物になっている。

屋根のてっぺんのは、何種類もの職業ギルドの旗が風でパタパタと音を立てている。

どこからどう見ても、お城だ。


「すご…」

「こんな山奥によくまぁ建てたな」

「わがギルドの総戦力を挙げて作りましたからね!自信作です」

「なるほど。ランドマークってことね」

「ギルドの総本山が住まうにふさわしい建物ってことか」

「その通り」

「…おい。本当にこんな奴らが世界樹を生やせるのか?ペテン師なんじゃねぇの?」

「しかたないだろ。ボスが確認したいって言っているんだ」

「ふん。どうせがっかりするだろうぜ」

「おい。早く来い」

「は、はい」



「うわ、」

「おい。大丈夫か」

「あ、ありがとう」


お城の中は、存外暗かった。

最初、明かりをつけていないのかと思ってしまったくらいだ。

暗さに目が慣れても、どうにも暗い。

そのせいで、どうも足元がおぼつかない。

そわそわしていたら、何もないところで、足を滑らせてしまった。それをアスランがすんでのところで押さえてくれたから、転ばないで済んだが…。いくらなんでも暗すぎないか?


「あいつら、目に暗視の魔法をかけているな」

「え?魔法?気づかなかった。いつの間に?」


あの人、魔法使えたんだ。

どうして私たちにはかけてくれないんだ。特に私はともかくアスランの見た目は、子どもだぞ。そんな子どもにもかけないなんて、不親切な人だ。アスランは、この暗さでも十分見えているみたいだから、別に構わないみたいだけど。

どうも、呼ばれているからお邪魔しているのに、歓迎されてないみたいだ。


「なるほど。一応、この廊下は意図して暗くしているのか。俺としては、落ち着くから、別になんともないが」

「いや。こうも暗くっちゃ、歩くのも怖いんだけど」

「こけおどしとはいえ、一応防犯にもなるのか。廊下にもいたるところに監視の魔法がかけられているな。おまけに罠まで」

「要塞か???…あ、いやまぁ、ギルドの長がいるんだから、しかたない…のか?」


何十とあるギルドのトップなのだから、命を狙われることもある…のかもしれない。

私は、国王が住んでいる城になんて、入ったこともないから、知らないだけで、実はお城の中というのは、割と暗いのかもしれない。

私としては、豪華絢爛。魔法ランプがいくつもあって、明るく、清潔、重厚感ある感じを想像していたのだけど、案外そうでもないのかもしれない。


暗い廊下を歩き続け、少し疲れてきたころ、ようやくギルド長がいる部屋までたどり着いた。

そして、入って早々たくさんの男たちに睨まれてビビることになる。

ギルド長がいる部屋にしては、どこか薄気味悪いところだった。

まるで地下牢のようなところだな、と思ったのが正直なところ。

窓がないせいで、室内は暗い上に天井は低く、そんな部屋に大勢の男が詰め込まれているせいで、部屋の中の空気は最悪だった。


「くせぇ…」


アスランが、ぼそりとつぶやいた。

それにこくりとうなずく私。

ポン助も、どこか顔がしょぼしょぼしている。


「待っていた。世界樹を生やせるというのは、本当か?」


ギルド長が座る椅子は、玉座みたいに見上げる位置にあるものかと思ったのに、全然違う。部屋にポツンと二つ椅子があるだけだ。

それを囲うような形で、男たちがこちらを待っていた。


兵士というには、柄が悪すぎた。

なんだか裏路地でも歩かされているような気分で、生きた心地がしない。

じろじろとこちらを見る目に節操はない。

ピクニックにでも来た呑気な親子にでも見えるのだろう。

女、子ども、犬じゃあ、しかたない。

そんなか弱い(実際は違うけど)私たちを見張るように、屈強な男たちが、ずらりと並んでいるのだから、圧迫感がすさまじい。


―どうしてこんなことになったのやら。


私は、ギルド長に促されるまま、椅子に座った。

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