第19話

「あれ?」

「どうしたの?」


一人の青年が、立ち止まった。

この国は、世界でも数少ない世界樹が生えていることで、有名な国だった。

本来ならば、教会が立ち、聖女や教会の人間が、結界を張ることで防いでいる瘴気は、この国では世界樹の力によって、浄化され、守られていた。

世界樹の周囲に魔物が近寄ることはなく、この国は、ほかの国と比べると教会がないこともあり、神に対する信仰がなかった。

今まで、どうにかなってきたのだから、どうにでもなるという精神である。

だから、高い金額の寄付を教会にすることもなく、教会が立つことに反対する国民が多かったため、この国ではいまだに教会もなく、聖女が立ち寄ることもなかった。


世界樹がなくなったり、枯れたりしたら、考えればいい。

どうせそんなことはありえない。


国の誰もがそう思っていた。

この国の王ですら、そう思っていた。

だから、教会の手紙も無視をしていた。


その大事な世界樹に感謝する人間は、もういないという事実を知らないにも関わらず。


そして、たまたま世界樹を見上げた青年は、いつもと違う世界樹の様子に気づいた。

元気がない。

そんな気がする。

いつもは、淡く光っているのに、今日はなぜか枝がしなびているような気がしてならなかった。


「あの世界樹なんだけどさ。元気がないように見えて」

「世界樹?…あぁ。あの大きな木?それがどうしたの?」

「なんかしおれてないか?」

「そう?」


青年の恋人は、青年と同じく世界樹を見つめ、そして興味がなくなったと言わんばかりに、顔を振り、歩を進めた。


「気のせいじゃない?全然いつもと変わらないわ」

「そう?でも、光ってないし」

「光ってるときなんて、なかったじゃない」

「いや、いつもは光ってたはず…だけど…」


そういわれれば確かに最近、光った様子がない。

いつからだろうか。

世界樹が光らなくなったのは。


「そんなことより、早くお店行きましょうよ。予約したの、あの有名なとこなんでしょ」

「あ、ああ…」

「日も陰ってきたし、どうせ明日になれば、元気になるわよ。知らないけど」

「そ、そうだな。そうだよな…」

「あんな木、気にしてる人なんて、早々いないわよ。あなた、オタクだったの?」

「そういうわけじゃないけど、いつも見てたから、おかしいな…って」

「なんかあったら、王様が何とかしてくれるわよ。ほら、早く行きましょ」

「ああ…」


青年は、ちらりと世界樹を見つめる。

そうだ。

俺の目の錯覚かもしれないんだ。

それにあの世界樹は、きっと国が管理している。

だから、なにかあってもきっと国がなんとかしてくれる。

だから、自分が何かをする必要はないし、何かにきづいたとして、何ができるというのだ。


そう思うのに、

なぜだかずっと、嫌な感じがする。

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