第17話
国の外を出て、ほかの国に行く。
問題は、距離ではない。瘴気と魔物である。
戦えない人間は、冒険者を雇う以外に国の外へ行く方法がない。
その上、瘴気から自身を守るためには、聖職者による加護の付与か、聖樹の葉や枝を使った特殊な魔法具が必要になる。冒険者を雇うよりもはるかに高価で、一般人であれば、とても手が出せない価格設定がされている。
だから、生涯国の外に出たことがない人間は、この世界に数多くいる。
私もそのうちの一人になると思っていた。
「人生どうなるか分からないものねぇ」
「何言ってんだ。当たり前だろ」
「わん」
「はいはい。邪魔しないで。あっちで遊んでて」
「子ども扱いするな」
「わふ」
がさごそと家じゅうの荷物を整理していると、アスランとポン助が横から、顔やら手やら鼻やらを押し付けたり、のぞき込んできて、作業の邪魔をしてくる。
どう見ても、これから国を出る旅支度をしているには思えない。
家を持ち運べるからと言っても、はい。じゃあ、安心ですね。とだけはならない。
食料と水の確保。
それに万が一なにかあった際の、ポーション(とても高い)の用意など、私だけ買い物をしたり、忙しい。
一応、家にも非常用のポーションがあるけど、念には念を込める。
「あ。瘴気は?大丈夫なの?」
「今更?俺を誰だと思ってるんだ。神様だぞ」
「わんわん」
「ポン助も清浄機能付きだ。お得だぞ」
「不安だ…」
「何を言う。安心安全神様の保証付きだ。まぁ、俺が神様なわけだけど」
「わふ」
「不安しかない…」
国の外には、瘴気がある。
常人であれば、5分で死んでしまう猛毒の世界。
それを防ぐために、大きな国であれば、聖女が結界を張っているし、聖女がいない国では、聖樹と呼ばれる木が代わりに結界を張ってくれている。
私が暮らしている国もそのうちの一つで、聖樹と呼ばれる木が、家の近くにある。
そのため、私の国では聖女もいないし、教会がうるさく言うこともない。
だから、この国の人たちの神様の観念が、薄い。
いるとは思うけど、別に信じてはいない。というのが、ほとんどである。特定の神様を信じているわけではないし、特別行事があるわけでもない。
つまり、聖樹が枯れてしまった場合、頼れる国がないということだ。
聖樹が生えている国は、ほとんどがそうなのだろうか。
万が一、何かあったら。という危機感が国民にはないらしい。
それどころか聖女を魔女呼ばわりしている人もいるのだから、よほど胡散臭く見えるらしい。
―聖樹へのお祈りも、もうしなくていいのか。
毎日欠かさず、行っていた聖樹の祈りは、昔からやるように言われていたものだ。祈りで、聖樹がどうにかなるとか、とても思えないが、亡き祖父と父から強く言われ、ずっとしてきた。
聖樹の祈りを欠かしたら、どうなるのかしら…もう関係ない話か。
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