第15話

じっと見つめあうこと数秒。


「俺は、神様だ」

「いや、そんなキメ顔で、もう一度言わなくていいよ」


私のリアクションが、気に食わなかったらしい。

きりっと表情を作りなおして、もう一度、言ったが、違う、そうじゃない。


「神様って、どういうこと?」

「だから、神様なんだって」

「意味が分からない」


むぅ。と膨れている顔は、かわいいが、こんな子どもが神様?

でも、確かにほかの人には、見えていないのだから…え。神様?本当に?


「もしかして、何かのどっきり?」

「んなわけないだろ。俺は、お前を助けにきたんだ」

「助けに?なにから?」

「この現状からだ!」

「はぁ…」

「む。信じてないのか」

「いや。まぁ、いきなり神様がやってきて、お前を助けにきたって言われたら、誰でもこんな反応になりますよね…」


いい年した大人が、神様が助けに来てくれた!ヤッター!みたいな反応をしたら、逆に怖いだろ…。


「とりあえず、逃げましょうか」


人が吹き飛んだ。それも私の恋人だった男が。

それで変に勘繰られても、怖い。

混乱している今、逃げ出すのが、吉だろう。

下手に騒がれて、魔女裁判に引っ張り出されたら、たまったものではない。

そそくさと、私は自称神様を抱き上げて、その場を去った。


「アスランという名前に聞き覚えは?」


―めちゃくちゃある。


「… … …私の家が崇めている神様の名前」

「そうだ。それが俺だ」

「まさか」

「本当だ」


ええ。こんなちまっこい子どもが、神様…?

本当に?


「実は、大きくなれる…とか」

「なんだ。成人男性姿がいいのか?このぷりちーな姿は、お気に召さないのか?」

「…いや。やっぱりこのままの姿でいい」


成人男性の姿で、この言動は少しきつい。

おもに私の精神的苦痛が。

可愛い子どもの姿だからこそ、別になんとも思わないのであって、成人男性の姿で、これはきつい。あと、見知らぬ成人男性(中身は同じだとしても)と終始一緒にいるというのは、少し気まずい。すでに見慣れた子どもの姿のほうが、気安い。

…神様に気安いと思ってしまうのは、いけないことなんだろうけど。


「というわけでよろしくな」

「はぁ…?」


納得してない私の顔をにやにやしながら、見ているアスランは、ふいに、ソファでゴロゴロと寝そべっているポン助を指さすと、


「あと、ついでにあそこでゴロゴロしている犬もどきも、神に近しい力を持っている眷属だぞ」

「はぇ…ポン助が?」

「わん」


ポン助と名前を呼ばれたと思ったのか、はたまた自分の話題だと気づいたのか、とことことやってきた。

どう見ても大きな犬にしか見えない。若干、顔つきが凛々しいな、とは思うけど。

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