第13話

「え?まさか、本当に見えないの?うそでしょ…」


まさか拾った子どもが幽霊だったとか、そんな馬鹿な事ある?倒れた子どもがいたら、正常な大人であれば、なにかしら対処するでしょ。それが裏目に出るとは、思いもしないでしょ。

いや、でも待って。こんなお天道様が輝いている真昼間から、存在できる幽霊とかいるの?

逆に強すぎない?え?じゃあ、この子、こんな身なりしておいて、実は、超強大&凶悪な悪霊だったりするの?全然、そう見えないけど。

ちらり、と子どもを見る?


「?」


子どもは、こてんと首をかしげて、こちらを見つめている。

可愛い…。

いや、そうじゃない。


私が、本当に頭を抱えて、唸っていると、「うおっ」聞き覚えのある声がして、頭を上げた。


「なんだ。道におかしな女がいると思ったら、お前か」

「ロナルド」

「おい。誰だ、この男」

「イカレた女だと思っていたが、本当にイカレちまったのか。かわいそうにな。あぁ。俺がいなくなっちまったからもんだから」

「なんだ、こいつ」


…本当にイカレていたら、どんなことがあってもこの男に付きまとっている。身寄りもなく、頼れる親戚もいない、職を失い、家はあるが、明日の暮らしにも困るほど、切羽詰まった状況だからだ。だが、悲しいかな。私は、一応、分別がある大人であり、こんな言動をする男に頭を下げたくないという見栄とプライドがあるからだ。

自身の尊厳を失ってまで、頼りたいと、まだ思えない私は、愚かなのかもしれない。


「あなたと私、もう赤の他人ですものね。ご安心ください。縁は、切れてます」


あれだけ好きだった男の顔も、今は、見ているだけで不愉快だ。

くるりと踵を返し、家に戻ろうとすると、腕をつかまれ、顔を手でつかまれ、強制的に振り向かされる。


「待てよ」

「なにすんのよ。離して」

「おいおい。お前、食べるものにも困ってるんだろ?土下座でもしたら、別に恵んでやらないわけでもないぜ。俺は、優しいからな」

「は?」

「ああ。そうだ。部屋がまた汚れてきたんだ。掃除してくれよ。ゴミも捨ててないだろ。お前の飯でいい。さっさと用意してくれ。…あぁ。そうだ着ていく服がなくなったから、洗濯もしておけ。下着だけは、洗っておけといったのに」

「は?」


何言ってんだ、こいつ。

縁を切ってくれだとか、お前とは別れるだとか言って、とっとと私を捨てた癖に。

なんで、私が土下座して、こいつの部屋を掃除して、ごみ捨てして、飯作らないといけないんだ?母親か?


「…あなた、もしかしてまだ、なにも出来ないの?」

「なにも出来ない?」


この男、母親に甘やかされて育てられたため、一人ではろくに家事ができない。

基本的に何もしない。

今までは、そんな姿も「しかたないなぁ」という一言で、引き受けていた。

だが、それも恋人だからだ。将来、夫になる男だったからだ。

今は、ただの他人。

しかも、こっちがこっぴどい別れを切り出されたほうだ。

どこの世界にそんな男の面倒をみたい女がいるんだ。

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