第10話

「ポン助。起こしちゃだめだよ~」

「くぅん」

「ほら。ご飯だよ。こっちおいで」


とことこ、やってきたポン助の前に皿を置き、「お座り」というと、素直に指示に従って、お座りするポン助。

よほど、躾が行き届いているのか、私の最初の指示にも静かに従った。

こんなに優秀だと、悪い人に悪いことをされないか心配になる。

この子の飼い主は、何をしているんだ。こんなに可愛くて、賢い子を放っておいて。

…いや。賢いから放っておいているのかもしれない。でも、世の中に犬を虐めて楽しむ人間はいくらでもいる。用心して越したことはないと思うのだけど。


「待て」


じっと待つポン助。私の顔を見つめて、指示を待っている。可愛い。


「よし」


はぐはぐと食べ始めるポン助を撫でる。

犬は、食べている最中に撫でられるのを嫌うと聞いたが、(おそらく餌をとられると思ってしまうのかもしれない)この子は大人しい。


「よしよし」


いつ見てもポン助の毛並みは、美しい。

真っ白な毛並みは、すぐに汚れてしまいそうなのに、いつ来ても綺麗だから、よほど大切にされているのだろう。それなのに、どうして放っておくのかしら。

ポン助は、いつも通り、お腹をポンポンにさせると、そのまま横になって眠ってしまった。


「じゃあ、次はこっちか」


未だにソファで寝ている子どもを抱き上げる。

寝ているのかと思ったら、ぎゅうとこちらの服を握ってくる。


「ご、ごめん。起こしちゃった?」

「絶対に出ていかないからな」

「いやいや。こんな夜中に出さないって。こんなソファじゃ体痛くなっちゃうでしょ?だから、ベッド行こう?」

「ん」


離すまい、とぎゅうっと服を握っていた手が少しだけ緩む。

うぅ、子どもどころか恋人もいなくなってしまったのに母性本能がくすぐられる。

こんな可愛い子を放っておく大人がいるなんて信じられない。


「ほら。着いたよ」

「… … …」


ベッドに着いたのに、なかなか服を離そうとしてくれない。

どうしてだろう。


「どうしたの?寝ていいんだよ?」

「お前は?」

「え?」

「お前も寝ないのか…」

「あぁ。寝るけど、まだやることがあるから」

「やること?」

「うん。神様に挨拶しないと。それにお父さんとおじいちゃんにも報告しないといけないから」

「あぁ。なるほどな。じゃあ、お礼も言っておくといい。そのおかげで、俺がここにいるんだからな」

「どういうこと?」

「神様と繋がりを持たせてくれる人間なんか、なかなかいないからな。よほど、お前は、父親と祖父に愛されていたらしいな。死んでなお、必死だった。おかげで、生まれ変わることも出来やしないのに」

「?よく分からないよ」

「ま、お前は感謝して生きろということだ」

「うん?わかった」


感謝ね…。

お店をつぶすような形にして、感謝よりも謝罪しか出来ないけどね。

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