第2話

「貴方が神様に仕えている身ですって?それって冗談?全然笑えないんですけど」

「いいえ。冗談なんかではありません。私は、きちんと資格をとりました」

「資格?」

「はい。これです」


そういって、仰々しく取り出したのは、一枚の紙。

そして、胸元のバッチをこちらに見せつけてくる。


「これが、その証です」

「おお!それは、店に飾ってある許可証だな」

「それがあるから、安心して買えるのよねぇ」


飲食店の営業許可証じゃないんだから。

だが、目に見える形で、誰にでもわかるものってのは、いいのかもしれない。

ってか、資格ってなんなんだ…。

しかも、そのバッチ見たこともないシンボルだ。

教皇のものではないとすると、一体どこのものなのだろう。


「そんなシンボル見たこともないんですけど、どこのものですか」

「信心深くない貴方には、縁がないのでしょうが、これは、エティモス教のシンボルです」

「え、エティモス…?聞いたこともない名前だわ」

「それで?」

「え?」

「貴方は、なにか資格をお持ちですか?」

「資格なんてないけど…一応、公式で、」


元々、資格だの、公式書類だのはない。

ただ、中央帝国の教皇から、私の名前は宣言されている。

名簿にものっているから、それが一応、証といえば証ではあるが、目に見えるものではないし、そもそもこの国の人たちがそれを知っているかも分からない。

この国の人は、あまり宗教だとかそういったことに詳しい人はいない。

いないわけではないが、目立つ数ではない。


「資格がない!!!」

「ん!?」

「資格がなければ、どうやって証明するというのです!貴方が、本物だと!」

「そ、それは、私の作ったお守りを身に着けてもらっていたら、分かるでしょう」

「いいえ!貴方の作ったお守りには、何の力もない!それは、多くの人たちが、証人となってくれている」

「え?」

「証人の方々、出てきてください」

「はい」


そういって、ずらずらと出てきた人たちには、見覚えがある。

少し前に私が、お守りを売った人たちである。

あの顔つきを見たら、分かる。私のお守りを庇ってくれるような言葉は、期待しないほうがよさそうだ。

なんか被害者の会とか組んでそうな陰鬱とした顔つきと空気だ。

一体、なにを言われるのかしら。


「では、最初の方どうぞ」

「はい」

「お名前をどうぞ」

「はい。ティモシー・ウェルです」

「わざわざこちらまでご足労いただいて、ありがとうございます」

「私、忙しいですんけどね」


忙しいというよりは、寝起き直で、ここに来ましたって感じの格好だ。

髪は、いつとかしたの?ってくらいにぼさぼさで、腰まで伸びきっているのは、伸ばしているからというよりは、お金がないのか、時間がないのか、手入れを怠っているからのように見える。

しかも、着ている服は、おそらく寝間着だ。

私のところに買いに来た時もそうだったけど、おそらくあの時と同じ寝間着だ。

元々は、ピンクだったのだろうが、薄汚れて、色あせしている。

ふくよかな体型は、少し身動きするのも苦しそうで、はぁはぁと小刻みに息切れをしている。

眠たそうな半眼が、こちらを見つめた。

私の店も、そこそこお客様が来るから、色々な人がいるけど、やっぱり変な人はいるものだ。


「私、そこでお守りを買ったんですけど、だめでした」

「駄目って何がですか?貴方が、買ったのは確か、縁結びのお守りですよね」

「はい。でも、だめでした」

「何が駄目だったんですか」

「ずっと、家にいるんですけど」

「はい」

「彼氏が出来ません」

「はい?」

「家にずっといるのに彼氏が出来ません」

「家にずっといたら、それはそうでは…?」

「でも、そこをなんとかするのが、仕事ですよね」

「ん… … …?」


なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ…。

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