ようこそ福寿草工務店へ

藤泉都理

ようこそ福寿草工務店へ




 銀色の長い髪をひとつにゴムで結ぶ。

 結び目のゴム部分にリボンを巻きつけて、そのゴムを隠すように上から結ぶ。

 束ねた髪をみっつにわけてリボンといっしょにゆるやかに編み込む。

 最後にゴムを留めて、余ったリボンでリボン状に結んで完成。


 片方の胸を隠すように垂らした、光沢のある水色のリボンを編み込んだゆるふわ三つ編みに、今日もかわいいと満足。鏡台の椅子から立ち上がり、襖を開いて、ずんずんずんずん廊下を突き進み、食堂で朝食を食べる住み込みの従業員に、頭は挨拶をかける。


 オハヨウゴザイマス紳士淑女サマ今日も元気に健康に出勤じゃあ!

 オハヨウゴザイマス頭サマ今日も元気に健康に出勤しますっ!


 野太い声、か細い声、甲高い声、だみ声など、様々な声が、滝のように流れ寄せた頭は満足げに頷いたのであった。






 社寺、神社仏閣、住宅まで幅広く、改修工事、耐震補強、古民家再生を行いやす。

 あくだれ共のような外見なれど、真摯、紳士、親切、丁寧に対応いたしやす。

 どうぞどうぞお気軽にお声がけをしてください。

 福寿草工務店へ。




「いや~ん。今日もかっこかわいいわね~。お頭さん」

「お褒め頂きありがとうございます。田中さん。気合が一段と入りましたぜ」

「いや~ん。私も気合入っちゃった~。今日のおやつは奮発するわよ~」

「ありがとうございます。でも、毎日毎日、おやつを頂いて、申し訳ないですよ。お心配こころくばりは有難いのですが。まだまだ寒い季節。お身体に障りがあっちゃいけねえ。どうぞ、温かい場所でお休みくだせえ」

「何言ってんの。お頭さん。私たちの大切な古民家を再生してもらっているんだよ。お金だけ払って、はいあとはよろしくお願いします。なんて、薄情な事ができるもんかい。そりゃあ、毎日、云万円の超豪華スイーツなんて、用意できやしないけどね。地元の自慢の和菓子屋の菓子を差し入れするくらいはさせておくれよ」

「田中さん」

「お頭さん」

「………今日もやってますね、お頭と田中さん」

「ブロック塀の陰から見ている旦那さんが超怖い顔するぐらいに相思相愛だな」

「ですね」


 熱い視線を交わし合う頭、二十八歳男性と、古民家再生を依頼した田中さん、七十歳女性を呆れた顔で見つめる、従業員、ふじ、十九歳男性と、同じく従業員、高林たかばやし、三十歳男性と、ブロック塀の陰から睨みつける田中さんの旦那さん、六十歳男性。


 いつもの長閑な朝の光景に癒されつつ、農作業に向かう地元の住民さん。

 予定では半年かかるらしいので、あと三か月は癒しを頂戴できるなと、あったかい気持ちで、作業服の左腕に赤色のリボンを結んだ従業員さんたちに、今日もよろしくなと声をかけると、よろしくですと、とても元気のいい声が返って来たのであった。




「田中さん。じゃあ、作業を再開します」

「ええ。よろしくお願いしますね」

「はい」


 農作業へと向かう田中さんと旦那さんを見送ってのち、三つ編みを作業服に入れ込んだ頭は、作業を再開したのであった。











(2024.3.6)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ようこそ福寿草工務店へ 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ