第24話 妻の親類
熱海市にある妻の叔母の家に訪問していた。
ここに来た事情を説明すると、叔母は、涙をこらえながら、「由里ちゃんの旦那さんには会いたいと思ってたのよ。まさかこんな形で会えるなんてね、由里ちゃんが導いてくれたのね」とハンカチで涙を拭った。
由里の葬儀のときは、収穫が一番忙しく、とうとう通夜にも告別式にも参列できなかったと悔やんでいた。
昼時ということもあり、昼食を用意してくれ、いろいろな話をしてくれた。
叔母は義母の妹で、代々農家をやっている家庭の二人姉妹だ。
「姉さんは派手好きで、高校を卒業したらすぐに東京に出ていってね。私は華やかなところは苦手だから農家を継ぐしかなかったの」
叔母は婿をとり、その夫も3年前にガンで亡くなったそうだ。
叔母の家には子供はおらず、一人っ子の妻は祖父母にとってはたった一人の孫で、大変可愛がられたそうだ。
「亡くなったお爺さんなんて、目の中に入れても痛くないってほど可愛がってたわね」と笑った。
「妻がここでお世話になっていたときがあったそうで」と言うと、
「高校生の頃に少しだけね。あの頃の由里ちゃんは本当に健気だった。ここにいる間に義兄さんが亡くなったっていうのに、涙ひとつ、泣き言ひとつ言わなかった。それどころか、うちの作業も手伝ってくれて、夜遅くまで勉強も頑張ってた」と、また涙声になりながら話してくれた。
義父は借金で首がまわらなくなると、借金取りが由里に危害を加えることを恐れて、由里を叔母の家に預けた。
その間に義父は自殺した。妻が高校3年の夏休みだったそうだ。
「由里ちゃん頑張ってね、義兄さんが出た大学に受かって、義兄さんが働いていた商社に就職したわ、きっと義兄さんを心から尊敬してたのね」
義父は母子家庭で育ったが、中学の時にその母も亡くし、小さな工場を経営している子供のいない親戚のうちに引き取られた。母子二人のときは食べるものにも困っていたそうだ。
「義兄さんからは、ちゃんとした物を食べさせてほしいと、それだけ頼まれたの」
妻が食事に拘ったのは、義父のことがあったからだろう。
義父は商社時代に接待でよく行く店でホステスとして働く義母と知り合い、結婚をした。義母は妻と似ていて、今でも妖艶なところがあるし、若いころは綺麗だっただろうと容易に想像できた。
由里が高校1年の頃、義父の養父母の工場が傾き、義父が跡を継いだ。派手好きな義母は反対し、それから夫婦の中は拗れていった。
暗い雰囲気なったところ、「由里ちゃんの写真みる?」と叔母は古いアルバムを持ってきた。由里は毎年夏には、ここに遊びに来ていたそうだ。
アルバムの中の妻は、今の姿からは想像もできないほど活発そうだ。
「この頃はお転婆でね、由里ちゃん、近所の男の子達をよく泣かせてたわ」と叔母が笑い、私も笑うと
「やっぱり似ているわ、義父さんに」と言い「由里ちゃんね、あなたのこと、笑顔が義兄さんに似ているって言っていたの。」
「だから、私だったんですね」と言うと
「それもあるかもしれないけど、あなたといると肩の力が抜けるって話してたわ。由里ちゃん頑張り屋さんで、少し頑張りすぎるところがあるから、良い人結婚したんだ。って喜んでいたのよ。」
胸が苦しかった。結局、私は妻を幸せにできなかった、そんな自分が恥ずかしかった。
少しの沈黙の後、「おばちゃんいる?」と玄関が開く音と一緒に男性の声がした。
「いるわよ~、上がって」
と入ってきたのは、私と同世代の体格がよく日焼けした男だった。
妻の再従兄弟で、漁師をしている健二だと紹介された。一人暮らしの叔母を心配してときどき魚を持って様子を見に来てくれるそうだ。
結局、その日は叔母と健二の誘いで、健二が持ってきた魚で料理をしてもらい夕食にし、泊まることになった。
健二は私と同じ年で由里より2つ下、子供頃は由里に泣かされていたが、由里が初恋だと話してくれた。
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