第20話 2度目の対峙

大介から一枚の紙を手渡された。

そこには

堺 誠

電話番号、住所、勤務先

が書かれていた。

これは誰だと聞く前に察しがついた、

大介からは

「坊っちゃんが一番知りたがってる人間の情報だ。」

私がその紙を睨んでいると

「用が済んだら、とっとと帰れ。お代は出世払いでいいからよ。」

帰ろうとすると、夜の仕事だと思われる派手な女が「大ちゃん、助けて~」と駆け込んできた。

大介は、困りつつも親身に話を聞いていた。

私を見て大介は、シッシッと手を振り私を追い出した。

大介も頼られているのだな。と何だか少し羨ましかった。


家に帰り、妻のスマホを確認した。

消されたマーくん、堺とのLINEのやり取りの始まりは衝撃的な動画からだった。

酔いつぶれた妻がベッドに横たわり、堺の手が妻のブラウスのボタンを一つ一つ外し、下着姿になった妻の身体をゆっくりと触り、胸を揉み、ブラジャーの中に手を入れているところで、私は見ていられず動画を止めた。

そして、その翌日のメッセージには

「旦那さんには知られたくないよね。また会ってくれるね」とあった。


許せなかった。怒りがこみ上げてきた。

妻はビールは好きだが、酒は強くない。

500の缶ビール2缶が私の適量なの。

というくらいで、酔うと眠くなるから外で飲む時は、量を控えてるの、と言っていた。

そんな妻が酔いつぶれほど飲んだのは、私のせいだ。


それからの堺とのやり取りは、堺から会う場所と日時を指定してくる内容ばかりだった。

妻から返答することは殆どなかった。

その場所は、私と堺が待ち合わせをしたホテルの部屋だった。


そして留守電が入ってることに気づいた。前に確認した時は無かったはずだ。それも妻が消したらしい。

留守電には

「お母さんだけど、何で、でてくれないの?お願いがあるの、家の登記情報を渡してちょうだい。あれがあれば加藤さんがお金を借りられるの。そしたら私と結婚してくれるって。あなたのお父さんになる人なのよ。

加藤さんに会った後、由里ちゃんの家にいくから準備しておいてね。

どうしても渡してくれないなら、聡志さんの会社に行って聡志さんに私からお願いするから」

それは妻が事故に遭う少し前に残されていた。

思えば初七日の次の日、義母は妻に預けたものがあると何かを探しにきた。何を探しているのか私には教えてもらえず、しばらく探した後、諦めて帰っていった。登記の書類を探していたのだろう。

妻が亡くなった日、義母は携帯を家に忘れたわけでもパートに行っていたわけでもなく、男に会っていたのだ。


何ていうことだ。

妻は義母にも追い込まれていたのだ。

義母に対する怒りもさらに増し、誰に何に怒っていいかも分からないほど私の頭は混乱した。


怒りで狂いそうになり、頭をかきむしっていると

妻のLINE電話が鳴った。

堺からだった。

以前の態度とは違い、しをらしい声で

「もう一度会ってもらえませんか」

と言い出した。

約束は次の日の午前10:00に、同じホテルのラウンジになった。

私は話すべきことを頭の中で何度も反芻した。

結局、その晩は一睡もできなかった。

これで2晩寝てないことになるが、頭は冴え、眠気など全くなかった。


そして約束の時間より10分前に約束の場所に到着したが、堺は既に来ていた。

私が席に着くと、いきなり立ち上がり「どうか訴えないでください。お願いします」と頭をさげた。

訳も分からず困惑したが、堺は立ったまま頭をあげなかった。そのままでは話しにくいので、席に座るように促した。

何も言わず目を合わせようとしない堺に向かって、昨日まとめたことを言おうとしたが、開口一番にでたのは、「あなたは妻と愛し合ってると言っていたが、妻とは無理やり関係をもったんですよね」だった。


すると堺は「あの女が悪いんだ。あの女が俺を相手にしなかったからだ」と話し始めた。

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