第19話 真実

京都から戻り帰宅した。

身体は疲れているはずなのに、眠気は全くなく、

妻の日記の続きを読むことにした。


◯◯月✕✕日

ごめんね、ママ、あなたのことを守ってあげられなかった。

ほんとうにごめんなさい、ダメなママで。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

短い間だったけど、ママとパパの子になってくれて、ありがとう。

今度、生まれかわったら長生きして、いっぱいいっぱい幸せになってね。


妻が流産した次の日に書かれたものだった。


◯◯月✕✕日

身体は重いけど、元気出さなきゃ。

亡くなった赤ちゃんのためにも。

ママ頑張るからね


◯◯月✕✕日

子供のこと、もう一度、聡志くんに相談しようと思って、帰るのを待ってたけど、寝ちゃったみたい。

聡志くん、私が寝てる間に帰って、すぐに出かけたみたい。最近、全然話せてないな。


◯◯月✕✕日

聡志くん、最近出張多いな。

今度の休みに聡志くんが見たがってた映画のチケット取ったけど、出張で行かれなくなっちゃった。


◯◯月✕✕日

やっぱりダメだった。

あれから2つの病気いったけど、子供は諦めた方がいいと言われた。

他の病院探してみたいけど、聡志くん何て言うかな。

聡志くんは今日も出張。

お酒飲んでも全然酔えない。


◯◯月✕✕日

私は最低だ。

最低なことをしてしまった。

何度も身体を洗っても、あの男の感触が消えない。

どうしよう。

どうしよう。


◯◯月✕✕日

あの男から誘いの連絡がきた。

いつの間にか私のLINEが知られている。

仕方ないから、約束の場所に行くことにする。


◯◯月✕✕日

また、あの男と関係を持ってしまった。

思い出すだけで、吐き気がするのに、断り切れなかったのは、私にも淫乱女の血がながれているからなの?

こんな自分が、自分の身体がおぞましい。


◯◯月✕✕日

もうこんな関係は嫌だ。

どんなに脅かされても、終わりにする。

聡志くんに本当のことを言って、離婚してもらおう。

それが、聡志くんに迷惑をかけない一番の方法だと思う。


◯◯月✕✕日

聡志くんにどうやって切り出そう。

話そうと思ったら、部長さんになる話があったって話をされた。言えなかった。


妻が亡くなる1週間前。

◯◯月✕✕日

あの男が別れに応じてくれた。

最後にもう一度だけ会いたいというので、会うことにしたけど、何と言われてもホテルの部屋には行かない。


妻が、亡くなる前日

◯◯月✕✕日

あの女から話があると電話があった。

もうこれ以上、あの女にも振り回されたくない。

聡志くんの昇進のお祝いに頼んでいたネクタイが届いたとお店から連絡があった。聡志くんに似合うといいな。

明日、あの男と、あの女と決別しよう。

聡志くんには、部長さんへの昇進がきまったら、お祝いにネクタイをプレゼントして話をしよう。

あのお店に行きたい。

聡志くんがプロポーズしてくれた、あのお店に。

聡志くんが私に似合いそうだね、と言ってくれたワンピースを着て。

それまでの間、少しでも楽しい思い出を作れるように頑張ろう。

そうだ明日からお別れの日までお弁当を復活しよう。


読み終わり、自分が涙を流していることに気がついた。

何から考えればいいのか、分からなかった。

妻はマーくんなど愛してはいなかった。

亡くなった日に買ったネクタイは私へのプレゼントで、ワンピースは私との最後の日に着ようとしていたのだった。


何も知らなかった自分が情けなかった。

仕事ばかりに夢中になり、妻のことを考える余裕すら持てずにいた自分が。


気づくと、外は薄明るくなっていた。

シャワーを浴び、着替え、タクシーで歌舞伎町に向かった。


店に着くと、シャッターを下ろす大介の姿が見えた。

「どうしたんだ、こんな遅くに」

早くにの間違えだろ!っと昼夜の感覚がない大介に突っ込みをいれたかったが、そんな余裕はない。

「まあ、入れ」と閉じたばかりのシャッターを開けて中に招き入れてくれた。

「頼まれてたものだ。それとこれ」と一枚の紙を出した。

そこには

堺 誠 とあり、電話番号、住所、勤務先が書かれていた。

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