第16話 妻の親友
妻の日記を読んでいると、神崎美佳と名乗る女性から電話がきた。
妻の高校からの友達で、一度紹介したいと言われていたが、都合がつかず会えなかった人だ。
「連絡をできなくて、ごめんなさい。昨日までイタリアに行ってたから。」
「以前は会えなくて、申し訳なかったです」
「いいの、いいの。私も普段は京都に居るし、あの時は、たまたま東京に用事があって、旦那さんに会いたいって、無理に由里にお願いしただけだから。」
「葬儀にも参列してくれたのに、挨拶もしないで、すいませんでした。」
「ううん。私も仕事があるし、あのお母さん苦手だから、早々に引き上げちゃったの。気にしないでくださいね」
美佳は6年前からご主人の仕事の都合で京都に移住した。そして5年前に籍を入れたそうだ。妻が婚活を始めるきっかけになった人だ。
妻の話を聞きたいとお願いすると、構わないがあまり時間がないと言う。
彼女は、妻の高校時代からの親友だと聞いている。恐らく妻のことを一番よく知る人物だろう。ゆっくり話を聞きたいと思い、思いきって、京都に行くことにした。
次の日、朝早く京都に向け出発した。
京都への道すがら、妻の日記を読みすすめた。
◯◯月✕✕日
高級なレストランで待ち合わせ。
ドキドキしてると、主任になったと教えてくれた。
そして、結婚してくれないかと言われた。
気取った言葉は一つもなかったけど、実直な言葉が嬉しかった。私で良ければと即答した。
なんか、感じたことない幸せ。
やばい思い出しただけで、涙がでそう。
できるのなら、この頃に戻りたいと思った。
そして日記は結婚生活に入り、私からも感じられる幸せそうな日々が書かれていた。
特に妊娠してからは、頻繁に書かれ、少しずつ育つ小さな命を心から喜んでいる様子が窺われた。
徐々に日記の内容は暗くなっていった。
◯◯月✕✕日
今日も気持ちが悪いし身体が重い。
会社では、また副社長の嫌み。いつもなら聞き流せるのに、今日は耐えられなくなってトイレで泣いた。
聡志くんに相談しようと思ったけど、最近帰りが遅くて話すタイミングがない。仕事忙しそうだな。でもイキイキしてる。こんな時に余計な心配させちゃダメだよね。
この時に、話す時間をとってあげていれば。。
◯◯月✕✕日
美佳に久しぶりに会った。
妊娠のこと、言おうかどうしようか迷った。
美佳は3年も不妊治療してるのに、成果なしだって言ってたし。
聞いたら、明るく「旦那とも相談して諦めた」と。これで仕事に打ち込めると笑ってみせてた。本当は傷ついてるだろうに。
隠すのも変だから妊娠のことを話してみた。
由里なら、良いお母さんに成れるよ!っと逆に励まされた。
そうこうしているうちに、京都に到着した。美佳が住んでいるのは、京都市内から少し離れた宇治というところだ。
電車を乗り換え、宇治駅からタクシーで行き先の住所を伝えると、10分くらいで住宅地にある倉庫のようなところに到着した。
私が来るのを待っていたようで、手をふって迎えてくれた。
中に入ると、窓際に小さな商談ができるテーブルと椅子があり、ノートパソコンとカタログのような冊子が並べられ、奥にはところ狭しと家具が置かれていた。
「ここは倉庫兼店舗なの。普段はネット販売のみで、お客さんは殆ど来ないけど」
美佳は、輸入雑貨と家具の販売をしていて、仕入れ先は主にヨーロッパで、ときどき買い付けに現地に赴くそうだ。
「妻のドレッサーもここで?」
「そうそう!あれを見つけたとき、絶対に由里が気に入ると思って写真を送ったら、案の定気に入ってくれて、私が結婚祝いにプレゼントしたの!」
美佳は小柄で、綺麗というより可愛い系の童顔だ。長身で綺麗系の妻とは対照的だ。
商談スペースに座るように促され、ハーブティを出してくれた。
「由里の事、聞きたいって、それでわざわざ京都まで」と不思議そうな表情を顔に浮かべ
「長くなりますよ」と笑って話し始めてくれた。
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