第15話 妻の日記

歌舞伎町の外れにある、その場所は薄暗い店内の正面に「パソコン、スマホ修理承ります」と書かれた張り紙があり、その奥にはショーケースによく分からない何かの機材が陳列されていた。


奥のレジカウンターには、長髪に無精髭、白いシャツにジーンズという格好でパソコンにむかい眉間に皺を寄せている姿が見える。

私に気づくと、「よう、坊っちゃん」と軽く手を上げた。この男は私をそう呼ぶ。

その男は鈴木大介と言う。この同姓同名が沢山いそうな名前とは裏腹に破天荒な生き方をしたやつだ。

父親は官僚、母親は大学教授というエリート一家に生まれ、有名私立大学の理工学部に通っていたが、東大を落ちた時点で両親は落胆し落伍者のレッテルを張った。大介以外、全員が東大卒の一家だから仕方ない。

そんな家を飛び出し、キャバクラで働いていた女の家に転がりこんだ。結局、その女は薬に手を出し、金欲しさに風俗に流れ、そこからは行方知れずになったそうだ。

本人はそこから人生が始まったと言っている。「人間は落ちていくときに、本当の姿になる。そこが面白い」と、それからは風俗の黒服、デリヘルの運営、探偵、盗撮·盗聴用機材のネット販売。ヤミ金の仲介など。


大介と俺は、学生時代、バイト先の居酒屋で知り合った。大介は私より4つ上で、東京に出てきたばかりの私に大介はいろいろな事を教えてくれた。

競馬、競輪、パチンコ、キャバクラ、風俗、など。田舎者の私には全てが新鮮だった。

私達は不思議と気があった。今でも数ヶ月に1度のペースで飲みに行くほどだ。大介の話はいつも面白い、歌舞伎町で日々起こっている珍事や裏社会の事を面白可笑しく話してくれる、どこまで本当か分からないが、平凡な私の生活には知る事ができない話ばかりだ。


「これなんだけどさ」とタブレットとスマホを出した。

「亡くなった、かみさんのか?」と言われた。大介に妻が亡くなったことは言っていない。驚いた顔をしてると

「俺の本業は情報屋だぜ、身近な人間の情報は常に把握してるんだよ。」

タブレットの暗証番号の解除と、スマホの消されたデータの復元を頼んだ。

「あまり感心しないね、こういう事は」とニヤけた顔でいった。

タブレットとパソコンをなにかのコードで繋ぎ、ものの数分で暗証番号は解除された。

この後、出かけるというので、スマホは預けていった。これで大介に妻の不倫の事を知られることになるが、大介には隠さなくていいと思った。


家に帰りタブレットを開き、まずは写真を確認した。妻のスマホには殆ど写真がなかった、その分タブレットには沢山の写真が保存されていた。

学生時代と思われる写真から、私との写真、中には宮部や奥野との写真、友人や同僚との写真など、どれも楽しそうに笑う妻の姿が写っていた。

その中に、須藤やマーくんとの写真はなかった。


他には日記のアプリを見つけた。

日記は5年前から始まっていた。それは妻が婚活を始めた時期のようだ。順を追って読むことにした。


日記の出だしは、

◯◯月✕✕日

美佳が結婚した。

私も、もう幸せになっていいよね?

婚活始めよう。いい人に出会えるといいな。


毎日書くという感じではなく、出来事ごとに書かれていた。

私と知り合う前、婚活で知り合った何人かとデートはしたようだ。結局、付き合うまで至った男はいない様子だ。


私と知り合った日

◯◯月✕✕日

今日のパーティーで初めて趣味が合う人に出会った。カップルになってランチデートをして、次の

約束をした。

久しぶりに楽しかった。


そこからは、私とのデートのやり取りが残されていた。私自身忘れていたことも多く、懐かしさと気恥ずかしさで胸が熱くなった。


そんな日記を読んでいると、神崎美佳と名乗る女性から電話がかかってきた。

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