第13話 もう1人の不倫相手

妻の不倫相手に会ってからは苛立ちが募った。

あの男に妻が惚れ、私を捨ててあの男と一緒になろうとしていた。

とても信じられなかった。

あの男に自分は負けたことが許せないのか、受け入れたくないのか、分からないがショックより苛立ちがあった。


そんな間にも妻の知人からいくつか連絡があった。

その中で、妻の前の会社で長く妻のアシスタントをしていた女性、中村真美にコンタクトをとっていた。初めは会うことを躊躇っていたが、会社の昼休みに少しならという条件で会う約束を取り付けた。


妻が以前働いていた大手商社の近くのビルにあるカフェで待っていると、そこに現れたのは、須藤と名乗る小太りの中年男性だった。

名刺を差し出され、部長という肩書きで、気付いた。妻のかつての不倫相手だ。

嫌みなほど、高級ブランドで身をかため、趣味の悪い派手なネクタイ、人をなめまわすように見る目付き、油症なのかテカった肌、悪印象この上なかった。


「中村くんに相談されてね、迷惑していると。奥様のことを知りたいそうだね、それなら私の方が詳しいからね」と大きな声で笑った。

「あなたは、以前に妻と交際されてましたよね」と訊ねると

「佐々木くんは、君には何でも話していたようだ」と笑い

「彼女は長いこと私の直属の部下でね、私のことを師匠のように慕ってくれていた、その師弟愛がときとして、度を越してしまって、私もそれに応えざるを得なかったんだよ」と笑った。

「つまり妻から、だと」

「そういうことになるね、ま、昔の話だがな、君も何を知りたいのか知らないが、過去を詮索するのはあまり誉められたことじゃないね、」と咎めるような目で私を見つめ、

「中村くんにつきまとうのは止めて、聞きたいことがあるなら、私を通しなさい。私も忙しいので、これで失礼するよ」

と、足早に席をたった。

人を見下すような目付き、まるで妻との関係は妻が悪いと言わんばかりの口調。どれをとっても嫌悪感しかなかった。


あのマーくんという不倫相手といい、妻の男を見る目を疑った。


その日の午後、ある人から連絡があった、今、成田空港だが、これから焼香しに行っていいかというメッセージが届いた。

メッセージの相手は、妻が大手商社時代に同期だった斉藤早苗だ。

突然の訪問だが、断る理由もなく、簡単に掃除をして、迎えいれた。

早苗は高級そうなネイビーの胸が空いたスーツに高そうなネックレス、顔は美人とまでは言えないが、バッチリとメイクされていた。


線香をあげながら、「佐々木~なんで?」と涙を流した。

「初めましてですよね?」とたずねると、「私、5年前からシンガポールに赴任してて、日本には殆ど帰って来ないから、今日は急に本社から呼ばれて、急遽帰国して、明日早くから会議だから、その前に佐々木にお焼香をしたくて、突然ごめんなさいね。」

と話した。

お茶を差し出し、妻の事を聞かせて欲しいと頼むと

「私の知ってることなら」と了承してくれた。

「佐々木と私は同期で、ライバルでもあった。佐々木は普段はおっとりした性格だけど、仕事となると別人でね、自分にすごく厳しいところがあって、手を抜くことは絶対にないし、向上心も強かった。

佐々木があんな形で辞めなかったら、私じゃなくて佐々木がシンガポールに赴任してたんじゃないかな。」とサバサバした口調で語りだした。

「あんな形とは、不倫が原因ですか」と聞くと、「なんだ知ってたんだ、相手の男が最低でね」

「須藤さんですよね?」

「そう、最低な男、女を食い物としか思ってない」

「でも妻の方が先に好意を持ったと聞きましたし、中村さんも慕っているようでしたが。」

「それ、誰から聞いたの?とんでもない話よ。

中村は契約社員だった、それを正社員にする条件で須藤の女になった。中村の家さ、母子家庭で下に弟と妹がいて、家計を支えてるのは中村みたいだから、逆らえなかったんじゃないかな。本当に嫌な男」

「でも妻は慕っていたんですよね?」

「佐々木から何も聞いてない?」

「ええ、何も。須藤さんとの事も、亡くなってから知って、須藤さんに会って聞いたもんで。」

「そう会ったんだ、嫌な男でしょ?

はぁ、私から話すのは気がひけるけど、佐々木の名誉の為に話すか」

と話してくれた。

妻は須藤の愛人になる前に多額の借金を抱えていた。その借金取りが、会社の方にもやってきて、須藤が借金を肩代わりし、その借金取りを追い払い、その条件として、愛人になること強要されたそうだ。

そんな事があったのか、それならば納得がいった、ただ同時に疑問が浮かんだ、

「なぜ、妻はなぜ借金をしてたか、知ってますか?」

「何も知らないのね。う~ん、話していいのかな。」

「教えてください。妻のことなら何でも知りたいんです。」と懇願した。

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