第12話 不倫相手と対峙

約束の男は約束時間に10分遅れてやってきた。

場所は相手が指定したホテルのラウンジだ。

待たせしましたの言葉もなく、迷いなく私の前に座った。

なぜすぐに分かったのか質問をすると、前に由里から写真を見せて貰ったから。と答えた。


顔は私や宮部と違い、目がギョろっとして堀が深く色黒で東南アジアにいそうな顔という印象で、背は低く妻と並べば妻の方が高いのではと思わせるほどだ。

声は高く、私には悪印象だ。妻の不倫相手だからかもしれない。


「由里は?」と相手から話だした。

「妻はここには来ません。ここに来ることも知りません。」と敢えて、妻がまだ生きてきるような印象を与えるように話した。

「妻とはいつから?」と質問をすると、まるで用意していたかのように悠然と語りだした。

「3カ月くらい前だったかな、知り合ったのは7年前に仕事で。ただその頃、僕はまだ28で、6つも下ということで、まだ子供ぽかったのか、相手にされなかった。

でも7年経って大人になって、由里もようやく僕の魅力に気付いたみたいで」と笑顔になり、「再会したときは運命を感じましたね」と得意げだった。

私はこみ上げてくる怒りを抑えながら、「あなた家庭は?」と冷静に聞いた。

「あぁ、家庭ね、持ってますよ、5年前に結婚して、子供も1人、でもね、そんなことはどうでもいいんですよ。僕と由里は愛し合ってる。それだけが事実で、尊いから」


ふざけたことを言う男だ。

家庭を持ちながら、人の妻に手を出し、何が尊いだ。

殴りかかりたくなる感情を必死にこらえ、

「あなたは、何か勘違いをしてる。私はあなたを訴えることだってできる。」

相手は声を震わせながら、

「う、訴えるなら、ご自由にどうぞ。私は家庭を捨てて、由里と一緒になる覚悟をしてるんだから」と開き直り、

「あなたも男らしくない、彼女から携帯を取り上げ、僕と連絡させないようにするなんて卑怯だ。まずは由里に会わせて欲しい。」

この男は、私が妻から携帯を取り上げ、連絡できなくしていると勘違いしているようだ。

私は「妻には会えませんよ、もう永遠にね」

相手は何を言ってるんだと、声を荒げた、

私は「妻は亡くなりました」と落ち着いた声で伝えた。

男は「嘘だ、。そんなはずは。」と顔が青ざめて、放心していた。

「嘘だと思うなら調べたらいい」と言い残し

、伝票を取り、その場を去った。


訴えるか、そんなことをしても虚しいだけだ。

努めて冷静を装ったが、相手の名前さえも聞くのを忘れてしまった。

これでは訴えるどころではない。


ただ、なんだか違和感があった、今日会った男は、さっきの話だと35才になる、その割には幼稚で、自分勝手で、妻が惚れていたとは信じられなかった。


それと同時にある疑問がうかんだ。

妻はなぜ私だったのだろう?

妻は美人だ。普段はあまり派手な格好はしないし、化粧も控えめだが、以前、知り合いの結婚式に出席したとき、しっかり化粧をし、フォーマルなドレスを着た妻は、息をのむほどだった。

年齢的なハンデはあるとはいえ、有名国立大出身、以前は大手商社で働いていた。

相手はいくらでもいただろう。

私のような平均点を絵に描いたような男ではなく、宮部のようなハイスペックの男が。


妻は私では満足せずにマーくんにのめり込んだというのか?

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