第10話 流産と不倫相手
朝、目が覚めると身体が重かった。
妻を亡くし、出世の道も絶たれ、何か自分が悪いことをしたのか。どうして自分だけが。と誰かに、何かに怒りをぶつけたかった。
そんなとき、ふと妻の辛そうな暗い顔を思いだした。流産したときだ。
半年前に妻は流産した。
妻は子供を欲しがっていた。だが、結婚して2年を過ぎても子供はできなかった。
医者からは不妊治療を進められたそうだが、私が難色を示した。不妊治療は肉体的にも経済的にも負担が大きいと聞いていたし、何より妻と2人の生活に満足していたからだ。
それからしばらくして、妻から「今日は早く帰ってきて」とらしくないLINEがきた。
帰宅すると華やいだ顔で、
「6週目だって」とお腹を触りながら、嬉しそうに言った。
食卓には倹約家の妻には珍しく、豪華な食事と高級なビールとノンアルコールビールが並べられていた。
子供の誕生は私も嬉しかった。
男なら、自分も幼い頃に父としたキャッチボールをしたい。女の子なら妻に似て欲しい。など話していた。
週末にはベビー用品を見ににいったり、将来の夢を語りあった。
妻はいつも幸せそうに笑っていた。そんな妻を見て私も幸せだった。
だが幸せは長くは続かなかった。
妻のつわりは日増しに酷くなり、仕事も休みがちになり、仕事を辞めたいと言い出した。
これからのことを考えると妻には仕事を続けて欲しかったが、辛そうな妻には何も言えなかった。
今にして思えば、あの時、つわりだけではなく、職場の悩みを抱えていたのだ。
そして、ある日、病院から連絡があった。妻が流産したと。
仕事を早く切り上げ、病院に急ぐと、ベッドの角に踞り私から目を背けるように、妻は泣いていた。
流産の原因は分からないが、妻には責任はないと医師から説明があった。
私は何と声をかけていいか分からず、泣いている妻の背中を擦ることしかできなかった。
それからの妻は塞ぎこみ、ベッドから出てこない日もあった。
徐々に明るさを取り戻してはいたが、ときどき辛そうな顔を浮かべていた。
あのときの妻の辛さが今なら分かる気がした。
ますます妻が何を考え、何を抱えていたのか知りたくなった。
久しぶりに妻の携帯を確認した。
義母から聞いていた妻が親しかった人に連絡を入れてみた。
会って話をしたい。と、不審がられるかもしれないが他に方法は思いつかなかった。
そして、一番気になり、開けることが怖かったマーくんからのLINEだ。
開くと妻が亡くなった日に既読3件と、未読が10数件あった。
既読分は
「いつもの所で待ってる。約束通り僕が買ったワンピースを着てきて」
「会えるの楽しみにしてる」
「やっぱり僕の気持ちは変わらない、由里と一生一緒に生きていくと決めたんだ。由里も覚悟を決めて。」
とあった。
未読分には、ホテルの部屋番号を伝える文、いつまでも待ってると言うような内容。
その中に動画があった。
動画は裸の妻がうつ伏せになり、その姿をなめ回すように撮られており、動画を撮られている事に気づいた妻が止めようと手でおさえかかる所で終わっていた。
予想はしてたが、これで妻が不倫をしていた事は疑いようがなかった。
そして亡くなった日に着ていたワンピースはその男から貰ったものだった。
感じた事のない怒りがこみ上げてきた、スマホを投げつけようとしたとき、妻のスマホにLINE電話の着信があった。
マーくんからだ。
でてみると、
「やっと既読になった。心配してたんだよ。」と、話し出した。
深呼吸をして、怒りを必死でおさえ、
私は「山下由里の夫です」と伝えた。
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