第7話 出会い

刑事を帰したあと、怒りが収まらず、冷蔵庫の缶ビールを開けた。

妻が自殺だと、馬鹿げている!

そんなはずはない!とビールを一気に飲みほした。まるで疑念を払拭するように。


ふと窓の外を見ると、桜が咲いていた。

この部屋を決めたのは妻だった。窓から見える桜が気に入り「ここがいい!」と即決したのだった。


妻と知り合ったのも、桜の季節だ。


今から4年前。 

休みでも何もすることがなく、家で携帯ゲームをしていたとき、同期入社の中で、一番先に会社を辞めた杉崎から電話がかかってきた。

「よう!元気か?未久ちゃんと別れたんだってな」とやけに明るい声だった。

未久とは3か月前に別れた当時の彼女だ。この杉崎の紹介で知り合ったのだ。

未久とは2年近く付き合った。

付き合いだして1年が過ぎた頃から未久はやたらと結婚をほのめかすことを言うようになった。

「まわりはどんどん結婚してる」とか「子供は早く欲しい」とか

結婚がしたくないわけでも、子供が欲しくないわけでもなかった。ただ実感が持てずに、未久の言葉をはぐらかしていた。

それでも何度となく繰り返される未久の言葉に、

このまま結婚するのかもな。と思い始めていた頃、未久との連絡がつきにくくなり、会う回数も減っていった。

そして3か月前に「私達には未来がないと思うの」と別れを切り出された。

寂しさはあったが、未久の目を見たとき、もう自分には愛情がないこと気付き、素直に別れを受け入れた。


「未久ちゃんが結婚するって聞いて、てっきり相手はお前とかと思ってたから、結婚式の招待状みてビックリしたよ!いつ別れたんだ?」と明らかに面白がってることが分かり、真面目に答える気になれず曖昧に応えた。

やっぱり、別の相手がいたか、。そんな気はしていた。

「まぁ落ち込むな、お前に良い知らせがある!来週の土曜日空けとけ!お見合いパーティーにいくぞ!」

「はぁ?お見合いパーティー?!行かねえよ!」

「何言ってんだ、どうせ暇だろ?失恋の傷を癒すのは新しい恋だ!もう予約してあるからな!仕方ない俺も付き合ってやるから」

「お前が行きたいだけだろ?お前1人で行けよ!」

結局、杉崎の誘いを断ることができずにパーティーに参加することになった。


パーティーは正午からで、10対10。1人1人とプロフィールカードを交換し、自己紹介をして、席を移動する方式だ。まるで集団面接だと感じた

3人と話し終えた時点で疲れ果て、あと7人と話すのかと、うんざりしたところ、4人目が妻だった。

妻は切れ長の目が特徴的な美人で、

その目がきつい印象を与えているが、笑うと柔らかい印象になった。

そんな妻に私は目を奪われた。一目惚れだった。

慌ててプロフィールカードに目を落とすと、年齢は私より2つ上の37歳だった。妻の見た目は若く年のことなど気にならなかった。

驚いたことに、プロフィールカードに書かれた、お気に入りの映画が同じだった。

その映画は妻が大学3年、私が1年の頃に流行っていた映画で、妻も私も3回も見た。

また妻も私も野球が好きで応援してるチームも一緒だった。


その後のフリータイムでは私から積極的に話しかけ、パーティーの最後にはカップルになった。

「お前騙されてるんじゃないか?うまく行き過ぎだろう」と言われたが、気にならず、パーティーが終わったあと、2人で遅めのランチをした。

妻とは映画や野球以外にも共通点が多かった。

海より山、洋食より和食、好きなアーティストなど話題が尽きることはなかった。

そして自然な流れで付き合いだすようになった。


そして知り合った日から、1年後の同じ日に記念になるからと籍を入れた。

区役所からの帰り、桜の道を手を繋いで歩いた。 この人と死ぬまで一緒に歩んでいくのだとしみじみ思った。


私達は、共通点が多く話題に困ることはなかった。

その分、お互いの過去や悩み等を話し合うことが少なかったように思えてきた。

私は妻の事を何も知らないのではないか。

妻は私には言えない悩みを抱えてきたのではないか?

妻のが何を考え、何を思い、何を求めていたのか。妻のことを知りたいと思い始めていた。

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