第6話 疑惑の始まり
告別式を終え帰ろうとすると、義母は遺骨を自分の家に持って帰るときかなかったが、私は「私の妻ですから」と自分でも驚くほど強い口調で、その申し出を断った。
帰宅し遺骨の置き場所を探していると、寝室の妻のドレッサーに目が止まった。
そのドレッサーは妻のお気に入りだった。
即断即決の妻には珍しく、ドレッサー選びには時間をかけていた。
結局、京都にある輸入雑貨店でこれを見つけたのだった。
「ここにしようか?由里ちゃん」と、そっとドレッサーの上に遺骨を置いた。
なんだか急に疲れが出てきて、
そのままベッドに横たわり、妻が寝ていた方に目を向けた。
もう片側によって寝なくてもいいんだな。
頬が濡れたことで自分が涙を流してることに気づいた。
翌日の朝、携帯のバイブ音で目が覚めた。
「朝から、すいません、○○署の平野です。」と妻の事故を担当している刑事からだった。
「どうしても確認したい事があるので、これから伺ってもいいですか?」とのことだった。
特に断る理由も見つからず、2時間後ならと了承した。
電話を切り、時計を見ると9時を少し過ぎたところだった。
そこまま携帯を確認すると前日の夜に2件の着信があり、2件とも部長からだった。
折り返すと、2コール目でつながり「こんな時に悪い、どうしても急用でな」と場所を移動する足音が聞こえてきた。
「用件はな、今手掛けてるプロジェクトの件だ。山下に相談してからともおもったんだが、知っての通り急ぐ案件だから、山下が休んでる間、近藤に引き継ごうと考えてる。お前には話しておいた方がいいと思ってな」
そのプロジェクトは1年もかけて暖めてきた。誰にも任せたくはなかった。
ただ今は仕事の事まで考える余裕がなかった。
「分かりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「気にするな、会社のことは気にせず、自分の事だけ考えろ」
「ありがとうございます」
と電話を切った。
何を考えればいいというのだ。
何をしたらいいのか分からなかった。
シャワーを浴びると空腹だということに気付いた。冷蔵庫を開けると、妻が最後に作ってくれた弁当が入っていた。あの日食べることも捨てることもできずに冷蔵庫にしまったのだった。開けてみると、さすがに腐り、角の苺にはカビが生えていた。
時間が経ったのだなと思った。
冷凍庫のご飯をチンして、卵かけご飯にした。
他には何も食べる気がしなかった。
こんな食生活をしてたら、由里ちゃんに怒られるかな?
妻は食事にはいつも気を使ってくれていた。
和食が中心で、メインのおかず1品に副菜が2品。栄養のバランスが考えられていた。
「元気な心は元気な身体から、元気な身体はご飯から」が口癖だった。
そんな妻の笑顔を思い出していると、チャイムが鳴った。
電話をくれた平野という刑事と、もう1人の2名でやってきた。
「いや~すいません」と言いながら、部屋に2人で上がってきた。
ソファに腰かけると小さなノートを開き「奥様の葬儀が終わったばかりだというのに。まったく因果な商売ですよ」と平野刑事は薄くなった頭をかきながら話し始めた
「あのう、確認したいこととは?」
「いやいや申し訳ない、奥様の事故のことで、
色々と調べていくと不思議な事が出てくるんですよ。」
「不思議なこと?」
「いえね、事故の相手の証言だと奥様の方がトラックに飛び込んできたと言うんでね。」
「どういう事ですか?」
「不自然なんですよ、見通しも悪くない道で、トラックを避けるどころか正面から、まるで突進するようにトラックに向かってきたというんです」
「そんな分ないでしょ。」
「それがね、確かにトラックに突進していく奥様の姿が近くの防犯カメラに映ってるんですよ。それで何か心当たりはないかと。」
「それはどういう意味ですか?まさか妻が自殺したとでも言うんですか?」
「いやいや何かお心当たりがあればとね、
まあ結局は、気が動転したドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えたことが原因なんでね。責めてるわけじゃないんですが、
私どもとしても事実を確認しないことにはね。」
「不愉快だ。妻が自殺なんてするわけない!帰ってくれ!」と叱責した。
「今日のところは帰ります。また後日伺います」
見送りもせず、怒りに震えていた。
妻が自殺?!
そんなわけない!と憤ったが、
本当にそうなのだろうか?
まるでモヤがかかったように、疑問が渦巻いてきた。
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