第5話 昔の男

妻のスマホにきた、マーくんから「本当に心配してます」というLINEが気になり、開いて返信しようかと思ったが、妻の親しい人には、自分と義母で手分けして連絡をし、他の人にも伝えて欲しいと頼んだ。

親しい人なら、そのうち連絡がいくだろうと思い返信はしなかった。


通夜の参列者は多くはなかった。

翌日の告別式には、土曜日ということもあり、多くの人が参列してくれた。

そこに知らない顔が多くいた。


参列者が落ち着いた頃、義母の姿が見えないので探すと、建物裏手の方で長身の男性となにやら話し込んでいた。

長身の男性はいわゆるイケメンで何年か前に亡くなった三浦○馬に似ていた。

年齢は妻や私と同年代だと思われた。よく見ると高価そうな礼服を身に纏っている。

近づくと、二人の話が聞こえてきた。

「あの頃が懐かしいわ、よく家に遊びに来てくれて、三人でご飯たべたわね。二人で将来の夢とか語り合って、輝いてた」

義母は涙声になりながら「あのまま、ケイスケ君と結婚してくれていたなら、変な男と付き合って、仕事を辞めさせられたり、こんな死にかたしなくても済んだかもしれない」

長身の男性は「でも、結婚してからは幸せだったんじゃないんですか、」すると義母は「幸せだったのかしら、そうは思えなくて」


ケイスケという男は妻の昔の男か、

妻に過去に男がいなかったとは思っていない、しかし、ショックだ。

私は結婚が決まるまで、妻の実家に行ったことはなかった。母がいるからと断られ、部屋で会うときは、きまって私の部屋だった。


そして、ケイスケと僕は明らかに違ったタイプだ、身なりからして金を持ってそうだし、イケメンで長身。

私と言えば、身長は174、高くも低くもないが、168と長身の妻とはあまり差がない、おまけに顔は平凡。

口の悪い女性同僚には「中の中、よく言えば平均点、悪く言えば印象に残らないタイプ」と言われたことがある。

嫉妬心はあったが、今はそんな事を気にしてる場合ではないと自分に言い聞かせ、足早にその場を離れた。


参列者が休めるスペースに行ったところ、妻と同じくらいの年頃の女性グループを見つけた。妻の友達だと思い話しかけようとすると

A「佐々木さんって、本当についてないよね、会社だってあんな辞めかたさせられて、死にかただって、こんなだし」

B「それより須藤部長、来てたでしょ。びっくりした。よく来れるよね~」

C「そうだよね~、自分の責任でくびにさせられたのにさ」

B「なんか香典袋が厚みがあったよ、いくら入ってるんだろう?」

C「罪滅ぼしのつもりなのかな?」

D「さっきから何の話?」

A「えっ?知らないの?須藤部長と佐々木さんっって、昔不倫してたの。それが会社にばれて佐々木さんはくび」

D「それって酷くない?」

A「まぁね。でも須藤部長の奥様の実家ってかなりの資産家でうちの会社の大株主って話だから、部長を辞めされるわけには行かなかったんじゃない。まあ佐々木さんも自業自得なわけだし」


そんな会話を立ち聞きすることになってしまった、その場から動けずにいると、いつの間にか彼女達の会話は別のゴシップに変わっていた。

頃合いを見計らって簡単に挨拶を済ませた。


佐々木は妻の旧姓だ。

辞めさせられたのは、以前の会社のことだろう。妻は私と知り合う前に大手商社に勤めていたことは聞いていた。

まさかそんな理由があったとは思いもよらなかった。

妻が不倫をしていた、にわかには信じられない。


私の知らない妻が浮き彫りになっていく。

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