第2話 妻のスマホ

集中治療室の前の椅子に座り、ふと横を見ると妻の所持品が目に入った。

妻が身につけていた服と、その日買い物をしたと思われる大きめの紙袋と少し小ぶりな紙袋、どちらも高級ブランドの袋だ。そして少し古めの使い込まれた高級ブランドのバック。

妻の服は、春らしい淡いグリーンの高級そうなワンピースだ。

そのワンピースには見覚えがあった。

クローゼットの奥のほうに掛けられていたのを、見つけ、

妻に「こんな服も持ってるんだね?」と聞くと、

妻は少し気まずそうに「バーゲンで安かったし、今度久しぶりに学生時代の友達と会うの。たまにはおしゃれしないとね」と何だか言い訳めいた言い方で説明した。

普段、無駄遣いを殆どしない妻だから、たまの贅沢もいいかと気にも止めていなかった。


しばらくすると、妻の母が慌てた様子で駆けてやって来た。

「携帯を家に忘れてパートに出掛けたから、帰ってから気づいて大慌ててやって来たの。」

と声をからしながら、「由里は?」と辺りを見回し、

ガラス張りの中にいる妻に気づくと「どうしてこんな事に」と涙声になった。

「大丈夫なのよね?助かるのよね?」と私に詰めよった。

私が言葉に窮してると、

妻のベッドから異変を伝えるアラームが鳴り、医師や看護師数名がガラス張りの中に入っていった。

そして、私と義母は集中治療室の中に入るように促された。

看護師に「手を握ってあげてください」と言われた。

すかさず義母は妻の左手を握りさすりながら、「大丈夫、絶対助かるら、お母さん信じてるから」「そうですね、先生?」医師は困惑してる様子だった。

応えない医師に反して義母は

「この子は強い子なの。中学生の頃だって、格上相手のチームに勝って県大会で準優勝したし、大学だって、担任の先生からは無理だと言われた○○大の外国語学部にだって合格したの」


妻は中学時代にバレー部に所属していた、その事は聞いていたが、県大会の話は初耳だった。

あるいは聞いていたのかもしれないが、記憶になかった。

妻の出身大学は、有名国立大だ。私立の三流大学出身の私は引け目に感じていた。そんな私に妻は「社会に出て10年も経てば出身大学なんて関係ないよ」と笑って話してくれた。


妻の右手を握っているとポケットの中身が震えた。妻のスマホのバイブだ、私には良からぬ考えが頭を過った。

それは妻のスマホを指紋認証でロックを解除することだ。

いけない事だとは思いつつも、衝動を抑える事はできなかった。

私は周りの目を盗み、そっと妻の指にスマホを当てた。

ここで解除されなければ仕方ないと半ば諦めてもいた。確認の為スマホを覗くとロックは解除されたようだった。すぐにでも確認したい気持ちがあったが、それは許されずロックが掛からないようにスマホを隠れて触り続けた。


何やら新しい機材が運ばれ、「一度退出してください」と医師に言われた。

義母は1人で歩くこともままならない様子で看護師に支えられながら歩き、そんな義母を見守るのうに私も集中治療をあとにした。

私はトイレに行くふりをして、その場を離れ妻のスマホを触り、緊張して一呼吸おいてからLINEを開けた。

真っ先に目に飛び込んだのは、マーくんという名前だった。

未読件数が8件にもあり、開けようと思ったが、妻が目を覚ましたら何と説明しよう、。

戸惑いがうまれ、開けずに取り敢えず、指紋認証を解除し、暗証番号設定に切り替えておいた。


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