第11話

全員、変幻の様子を窺いつつ臨戦態勢に入った。


「さあ、どうする? この状況で怪異そのものと化した我に勝てるかな?」


すると…変幻の後方から何かが飛んできて炸裂し、赤い肉片混じりの水溜まりを作った。


それは、変幻に殺された地元の警察官の死体だった。


「ほう…ねくろよ。まだ我の願いを拒み、立ちはだかるというのか…」


「これだけの死体があればネクロマンシーも自由自在…変幻! ここであんたに引導を渡すわ!!」


そうか、ねくろにはネクロマンシーがあったか。それにしても…ネクロマンシーってそんな感じだったっけ?


いや、それはともかくねくろに加勢しないと。


ねくろは別の死体を二体、誘導ミサイルの様に操り変幻にけしかけた。


しかし、それを待ってましたと言わんばかりにその死体は変幻から放たれた黒い光線か何かで一瞬で灰燼に帰した。


なかなか手強いな…。



「しかし、怪異のままだとねくろとちぎることもままならぬ…少々面倒だが肉体を取り戻すか」


変幻はそう言うと広場に四散した自身の肉片を手繰り寄せ、おぞましい人間体に変貌した。


それは筋骨隆々で毛髪も全て抜け落ち肉塊が溶け合った集合体……もはや人の姿をした化け物だ。


「ククク……ねくろ、再び問う。我のねんごろになるつもりは無いか? 悪いようにはせんぞ…2万円以上の赤スパを毎回の配信の度に送ってやれる…」


変幻は崩れた顔をねくろに向け、哄笑しながら言った。


「お断りよ! キモいし、あんたの赤スパのコメント見るたびに吐き気がするの!」


ねくろはそう叫んだ。

変幻の顔がみるみる歪んでいく…ねくろに明確に拒絶されて、よっぽどショックだったんだろうな。


前に、一度だけ変幻がねくろの配信の際に5万円の赤スパを投げているのを見た事はあるが、あの文面では彼女でなくとも吐き気を催すだろう…。

現に俺も今、思い出しつつ気分が悪くなりかけてるしオカルト系YouTuber界隈での評価は言うまでもなく最悪だ。


「貴様……我の厚意を無下にするのか……!?」


変幻は怒り心頭だ。


となれば最早、交渉の余地は無い(するつもりも無いが)…ならば今の俺達の持てる力でほふるのみ!


俺達は攻撃態勢に入ったが…ねくろは待って欲しいとばかりに俺達の前に立った。


「みんなは手出ししないで、このケダモノは必ずあたしが倒すから」


ねくろが真剣な眼差しで訴えるので、俺達は仕方なく戦闘体勢を解いた。



かくして変幻とねくろが対峙する…。


「ねくろよ…我のモノになっていれば安穏と配信活動に勤しめたものを…かくなる上はお前をこの場でたっぷり時間をかけて惨たらしく殺し、魂と肉体を未来永劫凌辱してくれようぞ」


「ハッ、本名が『田沢 氷兎故ひょっとこ』の変態野郎に言われても、ちっとも響かないわね」


「我の真名しんみょうを軽々しく口走るな!」


激昂した変幻がねくろに飛びかかる。

変幻はどうやら、本名で呼ばれる事が何よりも嫌な様だ。


そんなに嫌なら15歳以上なんだし地元の家庭裁判所で改名の申立でもすればいいのだが、動画配信と妖術と同業者への嫉妬や呪殺にかまけている変幻がそんな考えに至る事は一生涯無いだろう。


怒りに任せた変幻の突撃を、バックステップでかわすねくろ。

その顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。

そして、呪文を唱えると両腕を天にかざす。


慣れない突撃で一瞬地面に臥す格好になった変幻の上空に、10体以上の死体が浮かんでいた。


「田沢 氷兎故ひょっとこ! あんたのクソ歪んだ目論みもここまでよ!!」


ねくろがそう言いつつ両腕を変幻の方に振り下ろす。

すると、上空の死体の頭部から一斉に光線が放たれ変幻の身体を貫通。

その後、その死体が全て変幻に向かい爆発する。


「ギャアアアァァァ!!!!!」


変幻は断末魔の悲鳴をあげながら四散した。


ねくろのネクロマンシーは師匠譲りの、主に死体を使った攻撃や防御に特化したものなのだった。



こうして変幻示斎へんげんじさい…いや、田沢 氷兎故ひょっとこを倒す事が出来たものの当然奴の犠牲になった人々が生き返る事はなく、このままここに居ても面倒な事になるのは間違いない。


事実、誰かが通報したのか遠くからパトカーや救急車のサイレンの音が聞こえて来る。



俺達はその場から急いで撤収した。


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