第7話

1時間半を過ぎた頃だった。無線からTATARI SQUADのオガミの声が聞こえてきた。


「そろそろこっちも生配信を始めたいんだけど、PCが不調なんだ」


俺はカメラを持って裏口に行き、中の様子を見る事にした。

丁度彼らが外に出たタイミングで鉢合わせた。

どうやらスマホでの撮影も上手くいっていないようだ。


まあ、最悪今回はデジカメで撮って後日生配信でその模様をスタジオから配信するという方法もあるにはあるが、それも機材が不調ならそれすらままならない。


俺は彼らの撮影地点に向かった。


……薄暗い。

やはり不気味だ。


まるでホラー映画のワンシーンのようだ。


結局、先程の機材トラブルは俺と手斧とネコチグラの努力の甲斐あって解消された。

やはり手慣れた人間がいると助かるな。

機材の再起動に行き着くまで少々時間がかかったのはご愛嬌、ってヤツだ。


TATARI SQUADの4人は早速カメラを回し、いつも動画で見る軽妙な調子で撮影を始めた。


その途中、先程の地権者の親族らしき中年の男女2人が裏口から入ってきたので、先程同様に丁重にお断りし彼らが後ろを向いた瞬間に手斧と共にスタンガンを2人の首筋に当て放電した。


そして、全身を痙攣させながら昏倒する2人に馬乗りになり頭部を『動画撮影のご協力の感謝の気持ち』を込めながら特殊警棒で動かなくなるまで複数回殴打する。


俺と手斧で人を殺すのは久し振りなので手こずるかと思ったが、案外すんなり殺す事が出来た。

相手が腕っぷしの強い不良ならこうは行かなかっただろうな…。


謎留に教えてもらった『業者』に引き渡すため手斧と手分けして死体袋に2人のご遺体と凶器を詰めた。

脱力した人間はそれだけで重いのでかなりの重労働だ。


そして、『業者』に連絡を取り汗と少々の返り血を拭い何食わぬ顔で撮影場所に戻る。

カメラは回り始めている。

後は粛々と撮影を続ければいいのだ。



「ささっ、視聴者の皆様方。べたらラッキー全てはワシの運次第…」


ライブ配信カメラの前で、ハチゴロウが奇妙な柄の敷物を敷き、金属製の短い柄が彫り込まれた棒を振り回し、何やら呪文を唱えている。


『召喚できるかな?』というハチゴロウの動画ではお馴染みのコーナーだ。


大体、何も出て来た試しは無く、コメント欄で『何も喚べてなくて草』とか書かれるのが定番のお笑いコーナー…の筈だった。


「…ハーッ!」


ハチゴロウが呪文を唱え終わり、棒をカメラ目線で突き出したその時だ。


一瞬閃光が走った後ハチゴロウの足元にグレー地の薄手のアウターを着、黒地のショートパンツに艶めかしいチャコール色のタイツと特徴的なラインが入った白地のゴツめのスニーカーを履いたロングヘアーの女性が倒れ込んでいた。


俺はその女性を見て仰天した…殺人と死体損壊で逮捕拘禁されている筈の萬椎まんしいねくろだったからだ。


「ね…ねくろ殿!?」

ハチゴロウも大声を出して仰天していた。


無理もない。

召喚の呪文自体は本物だが、召喚自体一度も成功した試しが無いからだ。


ハチゴロウは彼女に駆け寄って脈や呼吸を確認した。

そして彼女を抱き起こし、頰を軽く叩いた……すると彼女は目を覚ましたようだ。


ねくろも驚いたようで目を見開きハチゴロウを見つめ、「キャッ」っと悲鳴を上げると慌ててハチゴロウから離れた。

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