第5話

俺はそれぞれに連絡を取り、コラボ企画を提案した。

TATARI SQUADは二つ返事で了承し、ハチゴロウの返事は予想に反して遅れた。

OKが貰えたのは良いのだが、謎だ……何故連絡が遅れたのか?

そして妙に乗り気な理由も……まあ結果オーライだ。


だが、残念な事に萬椎ねくろは視聴者に対する殺人と死体遺棄、損壊罪で逮捕勾留されていた。


担当の国選弁護人に保釈中にコラボしたい旨を伝えたが、『3人程心神喪失状態で視聴者同意の上で殺害したとの事で、最大限弁護はするが保釈が下りるかは難しい』との回答を書面で受け取った。


彼女が加わっていれば、誰かが殺害した廃墟に溜まる不良を生き返らせる絵が撮れていただろうに…残念だ。



打ち合わせ当日、TATARI SQUADとハチゴロウは約束の時間の30分に待ち合わせ場所に来訪した。


「いやー、ねくろ殿が逮捕されるとは…あんな聡明な美人が」ハチゴロウはそう言ってペットボトルのお茶を飲んだ。

TATARI SQUADの4人も頷いている。


それから、しばらく雑談になった。


TATARI SQUADの4人は最近撮影であった出来事を面白おかしく語ってくれた。

手斧が大笑いし、Abareはニヤニヤしながら聞き入り、謎留は真顔で頷く。


俺は……まあ普通だ。


そうこうしているうちに時間が来たので貸し会議室に案内した。


5人は挨拶もそこそこに早速本題に入った。


「今回お集まりいただいたのは、我らの動画でやって欲しい事があってお呼びしたんです」と俺。


そこで手斧が最近撮影してる廃墟の様子について、資料を交え色々説明し始めた。


TATARI SQUADの面々は頷きながら熱心に耳を傾ける……特に萬椎ねくろの親友だったAbareは熱心に話を聞いているようだった。


話も一段落したところで、手斧が話し始めた。


実はTATARI SQUADのメンバーとハチゴロウには、前回の動画で俺達の動画を見てもらっていた。

つまり彼らは既に『デミゴッド』が何を撮影し、何をしたいのか知っているのだ。


そこで、より理解を深めるために各々にどういう風に写って欲しいか提案して貰うことにした。


まずはハチゴロウだ。


彼は腕組みをして目を閉じている……やがて目を開きこう言った。


「そうですな…近隣から子供を誘拐して生贄に捧げ、悪魔を召喚するのはどうですかな?」


うん、すごくオカルトチックだ!……ただ、俺的には何もピンと来ない。


「…ははは、冗談ですよ。昔一度だけ試して逮捕されかけた事があります。今となっては笑い話ですがリスクしか無い」ハチゴロウは軽く笑って続けた。

どうやらそういう願望はあるらしい。


次は『TATARI SQUAD』のリーダー、マツロが口を開いた。


言い忘れてたが『TATARI SQUAD』はリーダーのマツロを中心に、霊媒師のオガミ、オカルト専門誌の編集者ナカイ、そして撮影・動画編集・配信担当のネコチグラの4人で構成されている。

ちなみに、ネコチグラは3人の中で最年少らしい。見た目に反して随分と落ち着いている。


マツロは少し逡巡した後話し始めた。


「普段俺等がやってる様な事をしてても仕方無いと思うんですよね。それではコラボ企画のメリットがない…」


俺はうんうんと頷きながら聞いた。

『TATARI SQUAD』の動画は謎めいた演出や物々しさが目立つのが特徴だ。

ナカイが彼に代わって続けた。


ナカイは30代くらいの痩せた男性で、銀縁眼鏡にボサボサの髪を七三分けにしている。オカルト雑誌の編集をやっている割には結構野暮ったいな……。


「この会議が企画されてから、それぞれのチャンネルの視聴傾向を外部ツールを使って調べて見ました。我々は周知の通り10代から20代の女性がボリュームゾーンです。他方でハチゴロウ氏のそれは概ね中高年男性に偏っている…。テレビが怪奇特番を放送しなくなったので、その層が流入してるのでしょう。そしてデミゴッドは…中高生の男女にウケている様子」


俺はナカイの分析に得心していた。確かにデミゴッドのファン層はその辺りだからだ。


そこで手斧が話を引き継いだ。


彼の表情はいつもの薄笑いではなく、いつになく真剣なものだ。


彼がこういう表情を見せる時は大抵何か良からぬ事を考えている時だ。俺は何となく身構えた。


手斧は咳払いをし言った。


「ありきたりですが、生配信コラボはどうでしょう? このメンツで組むのは初なので、各々のチャンネルへの新規層の流入が期待出来ると思います」


ナカイはそれを聞いてニヤっと笑い、「単純だけどいいね」と賛意を示した。


ハチゴロウは少し考え込んだ後に「ねくろ殿が拘留中なのは残念ですが、それが良策でしょう」と賛成した。


その後、コラボ動画の企画を固めた。


TATARI SQUADの4人は霊媒師のオガミの運転する車で某県の廃墟となった団地と隣接してる廃病院を回って貰う事にした。そこで各々カメラを持ち歩き撮影していくのだ。


手斧とネコチグラは配信係だ。


インフラは当日TATARI SQUADが契約してる通信会社の衛星通信機材一式とWi-fiルーターや大型モバイルバッテリーを台車に積んで動かすので、通信速度や安定性については恐らく申し分ない。


当然、Abareが先んじて地権者を拉致し四肢を縛って山林に捨てて来るので不法侵入の誹りを受けることもない。


完璧だ。



こうして『デミゴッド』の企画会議は無事終わった。

打ち合わせ後は貸し会議室にコンビニで飲み物を買ったり出前ピザを頼んだりして、ちょっとしたパーティになった。


TATARI SQUADとハチゴロウは祝杯を挙げている。

中でもネコチグラも饒舌な方では無いが、和やかに楽しんでいるようだ。

謎留はその輪に入らず、部屋の隅で飲み物を傾けていた……どうも人見知り気味らしい。


Abareもビールを流しこんでいるが、彼だけは無表情だ。

俺はAbareの隣に座って聞いてみた。


「やっぱり、ねくろが捕まったことが気になる?」


Abareは頭を振って、 気怠そうに答えた。


「まあな…」


そう、実は万椎ねくろはAbareと昔交際していたのだ。


俺が彼女の話題を振ったのは、単純に二人が仲良くしていた頃を知りたいと思ったからだ。

Abareは少し恥ずかしそうに言った。


昔、ねくろの方からアプローチしてきたのだそうだ……それから、動画配信から地権者の処分方法まで学んだらしい。

Abareは一通り話した後、クールダウンするためかタバコを吸い始めた。


俺はその後ネットサーフィンや動画素材整理をする、という事で適当な理由をつけて話を切り上げた。



その時ふと見たAbareが、物憂げに窓から遠くを眺めているのがとても印象的だった。

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