ダイニングルーム

 翌朝、すずかちゃんが起きたころ、お母さんは、朝ごはんの支度を終え、お父さんとすずかちゃんが来るのを待っていました。

「すずかちゃん、おはよう。」

「おはよう、お母さん。いよいよだね。わたし、昨日の夜、ねこのことばを勉強したよ。」

「あら、すごいじゃない。お母さんにも教えて。」

スマホの画面を見て、お母さんが言いました。

「今日は、十時すぎに、ここを出て、こねこちゃんを迎えに行く予定よ。したくをしておいてね。」

「はい。」

時計を見ると、時刻は、八時ちょっと前でした。

「お父さんは? みりもいっしょかな?」

「そういえば、朝から、みりを見ていないわ。いつもなら、ごはん、ごはんって、待ちかまえているのに。どこにいるのかしら?」

「わたし、みりをつれて来る。」

「すずかちゃん、ついでに、お父さんも起こしてきてくれる?」

「うん。」

すずかちゃんが、寝室に入ると、お父さんは、まだ眠っていました。

「お父さん、起きて。朝ですよ。」

すずかちゃんは、お父さんのかけぶとんを、ばさりとめくりました。

「わあ、すずか、やめてくれ。起きる、起きるから。」

「あれ、みりは?」

「こっちには、入って来なかったぞ。」

「ここじゃないとすれば、一階のどこかにいるのかな。」

「そのうち、出て来るんじゃないか?」

「変なんだよ、朝ごはんも食べてないんだもん。」

「たしかにそうだなあ。よし、お父さんが見つけるぞ。」

すずかちゃんとお父さんが、一階へおりて行くと、お母さんが、二人に気づきました。

「グッドモーニング。」

「お母さん、みりがいない。」

すずかちゃんが言うと、お母さんは、用意しておいたみりのごはんを、いったんテーブルの上におきました。

「みりは、繊細な子だからね。今日、べつのねこが来ることを敏感に察知して、かくれちゃったのかもしれないわね。昨日の晩から、すこし変だったし。」

すずかちゃんは、みりのごはんのうつわをさわりました。

「そんな。」

 その時、一階を見てまわっていたお父さんが、あたふたと戻ってきました。

「いやあ、たいへんだった。」

「ええっ、みりになにかあったんじゃないよね?」

すずかちゃんは、口元を両手でおおって、お父さんに問いかけました。

「違うんだ。お風呂場を見にいったら、むしが、同時に、二匹も出たんだよ。」

「いやだ、こわい!」

お母さんが、たじろぎました。

「それで、退治してくれた?」

「用水路に流してきたぞ。あのむしは、見た目はグロテスクだけれど、人間には悪さをしないし、ほかの害虫を食べてくれる、いいむしなんだ。」

「うそでしょ! しんじられない。こわいし、気持ち悪いわ。」

「お父さんだって、気持ち悪いけどな。今度から、入って来られないように、しっかりガードしておこう。」

すずかちゃんは、むしは怖いけど、みりになにかがあったわけじゃなかったので、ほっとしました。

「わたし、外へ行って、見て来る。」

「玄関は閉まっていたから、外にはいないと思うわ。」

お母さんが、すずかちゃんを引きとめました。

「どこへ行っちゃったの? みりー! みりちゃーん!」

いつもなら、名前を呼べば走って来るみりなのですが、足音も聞こえてきません。

「お母さん、昨日の夜、なにか変わったこと、なかった?」

すると、お母さんは、ピンと来たと言う感じで、手を打ちました。

「そういえば、ベッドサイドのクローゼットのとびらが、半開きになっていたわ。朝方、わたしが、閉めたのよ。」

「そうだったの。それなら、そこに閉じ込められているかもしれない。助けなきゃ。」

みりを探すため、すずかちゃん親子は、寝室へ集まったのでした。


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