第3話 TSヤサグレVTuberはマネージャーと話す
無事に合格することができたあたしは、非常にイキリ散らかしていた。
まあ、今世における久しぶりの大きな成功体験だからという理由もある。何せ小学生のテスト無双で成功体験が終わってるからな。
前世の記憶を下にしたテスト無双を成功体験と呼んで良いものかどうかは知らんが。いや、呼ばないとあたしのメンタルが崩壊するから成功体験です。
「まあ、受かったからってすぐにVTuberになれるわけがないよな。半年後まで無職か」
無職継続です。まだ母親から冷たい目で見られることが決定してしまったが、あたしは『合格』という二文字によって余裕が保たれている。
例えゴキブリの裏側を見るような目で見られたとしても、あたしの心は全く動くことはねぇのだ。
「さて、でも今からマネージャーも打ち合わせだ。仕事してる感がちょっと出る気がする」
小並感。
今世では初めて己の力のみでお金を稼ぐ経験をする。例え前世で味わったとしても、この感覚は何よりの嬉しさとやる気に繋がる。
とりあえず、マネージャーに媚を売ろう。
あたしはそんな薄汚い決意を固めて、通話アプリを起動する。あと一分ほどで電話が掛かってくるはず。
もうちょっと……もうちょっと……。
「はい」
「はじめまして。私、株式会社エアートリップの
「ひゃ、ひゃい!! ど、どうも、はじめまして! 山城美鈴です! ハイ!!」
スマホ越しに聞こえた声は、透き通るような声を持つ女性の声だった。
それが原因なわけではないが、緊張も相まって最悪なスタートを切ることになった。
☆☆☆
お互いに挨拶を済ませ、あまりの緊張具合に苦笑いをされつつ、ようやく本題に入る運びになった。
「山城さんが送ってくださった配信、勿論拝見いたしましたが、ご自身の予定としては歌がメインといった感じでしょうか?」
「あぁ、いえ、手っ取り早く自身の長所をアピールするのが趣旨だと思ったので、歌と雑談を兼用できる歌枠を取りました。時間の管理もしやすいですし」
「なるほど。歌に関しては唯一性がありますし、歌一本でも十分にやっていけると思います……が」
「が……?」
「私どもが注目したのは雑談の方ですね。そうと言いますのも、まるでコメントが来ているかのような設定で雑談をされていましたが、それを本番の配信で発揮することができたなら大きな武器になるかと。……山城さんは受けの才能があります」
「それはシモ的な?」
「違います」
やべぇ、マジレス返された。
いや、受けってどういうアレ? 単にあたしが無知なのかどうかは分からないが、とりあえず下ネタでは無いらしい。クソが。
そんなあたしの不様な様子を理解しているからか、マネージャーは懇切丁寧に解説を入れてくれた。
「受けと言うのは、主体的になってご自身で話題を広げて喋り続ける……ようなタイプでなく、相手の反応やコメントの言葉など、ワンクッションを置いて話をするタイプですね。どちらが良いというわけでもなく、一長一短ではあります。山城さんは主体的になって動くこともできますが、それよりも受けの才があると感じましたので、採用の決め手となりました」
ぬっ、歌の上手さで入れるだろ、とか高を括ってたのに全く意図してない別の理由で採用されたのか。なんか釈然としねぇな。
まあ、昔から人の話を聞いてから行動することも多かったしな。改めて言われれば納得できる点も多い。
なるほど、なるほどな?
才能かぁ。才能があるんじゃ仕方ねぇよなぁ!
「と、言いますと、どういう活動方式を取れば良いのですか?」
「特には」
「え?」
「特にはありませんね。運営側の企画や誰々とコラボしてください、などの指示がある時以外は自由に活動してくださって構いません。受けの方は不安材料が少ないので」
「い、意外とルーズなんすね……」
「主体的な方は、いらぬことを良く口走ったり、報連相より先に行動を起こす方が多いので……」
なるほどな。
まあ、理解できない話ではない。
行動派か慎重派が否かみてぇな感じではあるよな。あたしは意外と(?)ビビりだし。
折角好き勝手やれ(※言ってない)って太鼓判を押してくれたんだ。あっという間にVTuberの天下くらい取ってやるよ。
あたしはそんなイキりを心の中で披露しつつ、VTuberとして活動していく熱を燃やす。
もう、あたしの未来予想図はすこぶる明るい。
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